ヴィクトリア(1969)、古き良きイギリスを音に取入れて出来たキンクスの傑作曲 Victoria / The kinks
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ヴィクトリアとの出逢いから始まった
The Kinksが何でこんなに好きになったかというと、この曲、Victoriaがあったからだと今だから思う。The Kinksとの出会いは、やはりあの名曲、You really got meだったけれども、もしVictoriaを聞いていなかったら、The Kinksは単に普通に好きなバンドの1つに過ぎなかったと思う。
1980年代半ば、The Kinksの国内版アルバムは一枚も出ていないかった。だから日本の東端のクソ田舎に住んでいる者が、彼らのアルバムを手にするのは非常に困難を極めた。The Kinks、The whoと云った、海外では超メジャーロックバンドも、ここ日本では知る人ぞ知る伝説のバンドだったのだ。
そんな時代だったが、FM fanの新譜欄を見ていると、The Kinks fileと云うアルバム(2枚組)が発売になると書いてあった。それがその当時の田舎者にとって唯一The Kinksの国内盤を手にする機会だったのだ。もちろん輸入盤なんか売っている店はない。だから、それが初めて彼らの楽曲を網羅的に知る機会だった(60年代のモノだけだが)。
The Kinks Fileというシングルコレクション
このThe Kinks Fileというアルバムは、60年代のThe Kinks入門としては最適なアルバムで、PYEレーベル時代の代表曲がもれなく収録されていた。1枚目はデビューから数年間の所謂キンキー・サウンド時代。2枚目は60年代中期から60年代の終りまでの曲が収録されている。60年代中期からのThe Kinksの音こそ、のちのブリットポップの原形そのものだと思う。ロックでありながらも、とってもポップ、そしてイギリスの民謡を思わせる響きを取入れた曲を作っていたのだ。
The Kinks File1枚目は初期のキンキーサウンド満載で、ノリの良いソリッドなギターサウンドが続く。後にパンクやヘビメタの元祖と云われるのも納得の楽曲に満ちている。当初はこの1枚目が大好きで何度も繰返し聞いた。それに反して2枚目はと言うと、キンキーサウンドは鳴りを潜め、地味でまるでフォークロックのような音の曲が続く。刺激的な音に飢えていた10代のオレは、2枚目を積極的に聞こうとはしなかった。
ただ、ケチな性分のオレとしては、4000円もしたアルバムだから、半分しか聞かないというのは勿体ない。4000円の元を取る為に、2枚目を半ば強制的に、読書や勉強中のBGMとしてかけたりしていたものだ。
そんなある日、フォークロック調の、しかもブラスがブカスカ入った、何だか能天気で田舎臭い曲のリードギターがたまらなくカッコいい事に気がついた。そしてメロディーが自然としみ込み、気がつくと鼻歌を謡っている。それが60年代後期のThe Kinksの代表曲の1つ、名曲Victoriaだった。
発表された60年代末にして、既に古くさいサウンドのVictoria。他のバンドはサイケだのニューロックだのにうつつを抜かしていたと云うのに。
Victoria聞きたさに2枚目を繰り返し聞いていると、次から次へと味わい深い名曲が盛り沢山なのにやっと気がついた。60年代中期から後期のサウンドは一聴地味ながら、よく聴くと実にポップで丁寧で素晴らしいメロディーが溢れているのだ。
そんな訳で、Victoriaで60年代後期のThe Kinksの良さが判ったからこそ、未だにどっぷりとThe Kinksにのめり込んでいるんだと思う。
ヴィクトリアは女王陛下を褒め称える歌
それにしてもこのVictoriaは非常に変な曲だ。この曲は100年以上前に即位したイギリス女王を褒め称える歌なのだ。一般的に反体制と目されるロックバンドが、女王陛下を称える歌を唄うなんて、日本ではまったく考えられない。まあ、この曲が収録されたアルバムはコンセプトアルバムで、その流れを考えると単に女王を褒め称える曲とは言い切る事は出来ない面は確かに有る。
でもなんであれ、「天皇陛下の世が万代続きますように」なんて歌おうものなら、極右扱いされるのがこの日本。愛国=アメリカ万歳。こんな事からちょっと日本の「異常な、拗くれた、愛国・保守」というモノを考えてしまうオレ。
反体制なのに愛国者って日本以外では別に珍しくないけど、日本では反体制=社会主義者、また反アメリカ=共産党、中国の手先と云うレッテルを貼られてしまう。そういうレッテル張りをして、国民の思考を凍結させ続けさてきた日本の戦後。戦後行われてきたのは、左右両翼が手を携え無意識にこの国の本当の伝統や文化を破壊してきたんだ。歴史も文化もない根無し草の日本人製造政策…..。おかしと思わないか?
The Kinksは別に女王陛下その者をたたえているんじゃない。イギリスの文化や伝統を素晴らしいものとして,誇りを持って褒め称えているんだ。自分の生まれ故郷を誇りに思っているからこそ、素直にそういう歌が歌える。だが日本では…….。オレ達には何もない。
それはさておき、たかがロック音楽なんだけども、こういった事から世界の常識や、日本の異常な点に気付かされる事が多々ある。歴史や文化を愛するとはどういう事なのか、そんな事をこんな音楽からでしか学べない日本人。
Victoriaを聞いて、コーラスで一緒に合唱する。「Victoria女王万歳」と。知らず知らずのうちに無意識に、他国の女王を褒め称えているのだ。イングランドには植民地学という学問が有る。あの国の巧妙な他国支配のやり方には感心する。侵略とは武力だけじゃないのだ。ここにもイングランド贔屓が1人居る。たかが音楽だが、音楽にはそんな奥深い面があるのだ。British Invasionは今も続く。
The Kinks Fileがない今は、これがThe Kinksの入門編として最適なアルバムだと思う。
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