キンクス「UKジャイブ」埋もれさせておくのはもったいない名作 The Kinks / UK Jive(1989)

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The Kinks / UK Jive 1989年10月にリリース


The Kinksのアルバムにハズレが無い! というのはファンの間で長年言われてきた言葉。The Kinksのアルバムはどれも傑作ぞろいだけれども、各々その中でも特別にお気に入りのアルバムがあると思うのだ。オレの場合はU.K JIVEがそれにあたる。80年代末に発表されて、特に話題にもならず、そして商業的には失敗したと言っていいアルバムなのだが、オレにとっては1番愛着のある作品だ。

The Kinksは10代の頃(1980年代半ばの事)から好きではあったが、The Beatles同様、過去のバンドだと思い込んでいた。過去の作品を少しずつ発掘するように、オレは彼らの作品を聞いていた。その当時のThe Kinksはロック雑誌にもほとんど取り上げられる事のない、「マニアックな過去のロックバンド」だった。

大学授業の帰りにぷらっと立ち寄ったDisc Unionお茶の水店。マイナー調でテンポが速く、そしてシャープな演奏の曲が流れていた。ボーカルの声には何だか聞き覚えがある。これはカッコいい音だぞ。誰の歌だ? と、レジ前に展示しているCDを見ると、「The Kinks / UK Jive」とジャケットには書かれていた。

はじめてみるThe Kinksのアルバムジャケットだった。それもそのはず、それはThe Kinksの最新アルバムだった。1989年の秋の事だった。

この音はまさに今を生きるロックバンドのものだった。The Kinksは過去のバンドじゃなく、今を生きているバンドだったのだ。とその時オレは衝撃を受けた。

アルバムUK Jiveについて

オレのジャケットでuk jiveのジャケットを再現してみた

リリースされたのは1989年10月2日(U.K)。彼らの23枚目のスタジオアルバム。録音は1988年11月から4月までかけて制作された。スタジオはもちろんLondonのKonk Studio。6曲目Entertainmentだけ1981年の6月に録音されている。ということはドラムがMick Avoryが叩いている。長らくお蔵入りしていたのを採用したのだろうか。

曲目は以下の全12曲だが、LPだと11、12の2曲(ともにDaveの曲)がカットされていた。CDで聞いていると、最後の3曲だけDaveのソロアルバムのように聞こえて、アルバムから浮いて聞こえるのが可笑しくなる。きっと兄弟げんかの果てに、Daveコーナーがボーナストラックとして付け加えられたのだろう。。

1.Aggravation
2.How Do I Get Close?
3.UK Jive
4.Now and Then
5.What Are We Doing
6.Entertainment
7.War Is Over
8.Down All the Days (Till 1992)
9.Loony Balloon
10.Dear Margaret(Dave作詞作曲)

CDのみのボーナストラック
11.Bright Lights”
12.Perfect Strangers

あいかわらず、どの曲も名曲で、歌詞も素晴らしい。いくつかの曲について、いらん解説を書いてみようと思う。

1曲目のAggravationがDisc Unionで流れていた曲だ。国がどんどんと悪化して、劣化して行く様にいらだちを募らせる歌詞を読んでオレは驚いたよ。

「おい、三菱にトヨタ、誰だよ戦争は終わったなんて言う奴は」。

ニホンはこのころバブルの絶頂期。そしてイギリスはどんどんと悪化して行く。Apemanの嘆きは、さらに深まって行くのだ。その30年後にニホンが同じ目に遭っている。だけれどもそんな現状を憂うロッカーなんか、この国には居ない。

スローな歌いだしで曲は始まるが、詩の激情にあわせて曲は突如パンク調にスピードアップする。そんなパンクな曲に乗せて、Ray様のボーカルはラップしている。さらに曲はディスコ調に変化して行く。曲の冒頭と終りが全く異なる印象を持つ、実に不思議な展開をする曲だが、とてもカッコいい音だ。

The Kinksは何でも取り込むところがある。ディスコ調になってからの軽薄なギターがとても面白い。本当にこのギターはDaveが弾いているの? とオレは聞く度に驚く。

2曲目How Do I Get Close?はRay様お得意の切ないメロディーに、人と人がどうしたらお互いを理解出来るんだろうと歌う曲。男と女、人と人、兄と弟間に横たわる断絶、不理解を歌っているとオレは思うのだ。人嫌いに思えるRayさんは、実はどうしたら人と親密になれるのだろう、判り合えるのだろうと悩んでいるのだ。

3曲目のUK Jiveはとても軽快な曲で、曲の最後は60年代のビートバンドに対するオマージュ? いや揶揄? で終る。Ray様は「Do that U.K Jive」と叫ぶが、曲はThe WhoのMy generationの終り部分を引用して、さらに別のポップスの曲(これがなんの曲なのかオレは分からない)に変わり、最後は自身のYou really got meのアウトロで終わる。誰かその不明の曲の引用について、何の曲か知っている人がいたら教えて。

8曲目Down All the Days (Till 1992)のキーボードのイントロが当時からとってつけたようでとても気になっていた。なんでこんな軽薄なキーボードのイントロを付けたのだろう?と。 

それが最近Van HalenのJumpに対する返答なのだという事に気がついた。You really got meをカバーして大ヒットさせてくれたお礼を、しつこく10数年後にも繰り返すRay様。その粘着ぶりもThe Kinksの魅力と、そして曲を聞く楽しみでもあるのだ。

この曲は1992年のEUの統合に対する賛歌として作られた。この当時のEUとは夢や希望を意味していたのだ。Ray様にしては珍しく、そんなEU統合に向けて、皮肉も何もなく、素直に希望と夢を歌っている。

まさかそれから30年経ってこんな事になるとはね。Ray様もその時はまったく予想してもいなかったろう。魂の無い偽善者のリベラルが移民をどんどん受入れて、社会をこんな風に破壊してしまうとは。

※残念ながらSpotifyにはUK Jiveが登録されていなかった。しかたないのでyoutubeにリンクを張っておく。何というこのアルバムの埋没ぶり。

youtubeへのリンク:The Kinks / UK Jive

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The road to Kinky Mania

ユニオンジャック

The Kinksは中学高のころから好きなバンドだった。でも当時は(1980年代半ば)彼らのアルバムなんか手に入らない。日本盤はことごとく廃盤になっていたのだ。北海道の東のハズレの田舎町に住んでいたんじゃ、輸入盤は買うどころか、見た事もない代物だった。

大学進学で上京してからは輸入盤が普通に買えるようになったので、The Kinksの過去の音源を徐々に発掘して聞けるようになった。が、その当時のオレの認識は、The Kinksとはベンチャーズのような枯れたロックバンドだったのだ。

U.K Jiveを聞いて何が衝撃だったかというと、アルバムに収められた曲は、どれもモダンな、正に今を生きている現役ロックバンドの音だった事だ。歌われている歌詞も、まさに今生きている者達が直面している危機や、苦悩、喜びが歌われている。音も詩も全く古びていなかったのだ。

U.K Jiveを聞くと、現われては次々と消えて行く若手バンドと真っ正面からぶつかり、The Kinksはいつだって現役なんだという非常に強い意志が伝わってくる。そして過去の栄光に浸り、過去の遺産で食いつないで行くバンドとは違うのだよと、このアルバムは語っていた。

The Kinksはその時から、オレにとって過去の遺物ではなくなった。死んだと思っていた過去の人が突然現われ、肌もテカテカに輝き衰えのない声で朗々と歌い出したようなものだ。

この時からThe KinksはNirvanaやその他若手のバンド同様、この同じ時代を生きているロックバンドになった。歳はとっているけれども、ちっとも古びれていない、現役バリバリのロックバンドだ。

そんな事で、このアルバムを発売直後に聞いた事から、真のThe Kinksファンへの道、いや奈落へオレは真っ逆さまに墜落してしまったのだ。The Kinksの名作は沢山あるが、愛着のあるアルバムとなると、U.K Jiveががまず頭に浮かぶのだ。

オレのジャケットでuk jiveのジャケットを再現してみた

そういやその頃、どっかの老舗バンドがクソみたいな新作を出してワールドツアーを行っていた。それを「復活!」と称して、大騒ぎしていたのを思い出す。退屈なライブに払ったチケット代金半分返せよ! と今でも恨みに思う。

方やThe Kinksは売れない、話題にならない。だけどもコンスタントに作品を出し続けた。ツアーだって手を抜かない。The Kinksは60年代から、途切れる事なく活動を続けていたというのに、この扱いの差は何なんだろう。The Kinksこそ止まる事なく、転がり続けていたのだ。休んでた方がマシだっていうのか?

だけども最近は、The Kinksが正当に評価されるようになったと感じるようになった。彼らの価値を正しく評価されるようになってみたら、活動休止なんだか解散したんだか判らない状態というのもThe Kinksらしいと思う。

それはともかく、U.K Jiveはホント良いアルバムなんだから聞いてよ。


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