フリップというモンスターに取り込まれたダリル・ホール Daryl Hall / Sacred songs(1980年)
以前にDavid BowieのScary Monstersについて記事をかいた。DavidはRobert Frippというモンスターを飼いならしたという内容の投稿だった。
今回は逆に、そのモンスターにすっかり感化されて、とんでもないアルバムを作ってしまったダリル・ホールさんの1stアルバムについて書いてみようと思う。
Table of Contents
Daryl HallがSacred Songsを発売出来たのは1980年になってからだった
King Crimsonが好きなら、関係するバンドや、ミュージシャンの作品にも手を伸ばすのは必然だ。その中でもやはりRobert Fripp先生の活動は特に気になる。
Fripp先生は70年代Crimsonを解散後、神秘主義を学ぶために出家して数年間修業していたが(ちょっと理解しずらいが、そういう人だ)、その後徐々に音楽業界に復帰していった。
復帰した70年代後半から80年代にかけてずいぶんいろんなミュージシャンと共同作業を繰り広げてきた。やはり彼は音楽家であって、ただのギター演奏家ではない。Fripp先生は共同作業で数々の傑作に関わってきたが、どのミュージシャンも個性的な傑出したボーカリストたちだった。
その1人がDaryl Hallだった。
Daryl HallがRobert Frippのプロデュースで1stアルバムを製作したのは1977年の事。「Sacred songs」というのがそのアルバムだ。ところがこのアルバムは、あまりにもFripp色が強過ぎるとして、RCAレコードは販売を拒絶する。The KinksはRCA時代には、好き放題にロックオペラのアルバム(あまり売れなかった)を作らせたというのに、Darylのこの扱いはどうしてだろう?
アルバム完成後3年間お蔵入りして、1980年にようやっと日の目を見る事になった。このアルバムからはヒット曲は生まれなかったが、売れ行きは好調だったとウィキに記述がある。
Sacred SongsはHall & Oatesの音楽性とあまりにもかけ離れた部分がある。Darylらしい面も沢山あるのだが、確かにこのアルバムは、アバンギャルドだ。
Hall & Oatesファンの耳にはこのアルバムがどう聴こえるのかちょっと判らないが、Frippサイドに居るオレとしては、実にロックしてて、ポップしてて、ボーカルは聞き応えは有るわ、Fripp色も濃厚で、とても素晴らしく、面白いアルバムだと思う。
アルバムSacred Songsについて
アルバムジャケットは、とても良い表情でDarylが右手の3本指を上に向けて突き立てている。これはいったい何のサインなんだ? なんとなくCrimsonの1stの内ジャケットを連想させるが。
それはともかく、このジャケットを見た者は、きっとソウルフルな素晴らしいアルバムに違いないと勘違いするだろう。
Sacred Songsの収録曲は10曲
1 Sacred Songs 3:14
2 Something in 4/4 Time 4:22
3 Babs and Babs 7:41
4 Urban Landscape” (Robert Fripp) 2:29
5 NYCNY” (Fripp, Hall) 4:33
6 The Farther Away I Am” 2:52
7 Why Was It So Easy 5:27
8 Don’t Leave Me Alone with Her 6:22
9 Survive 6:37
10 Without Tears 2:47
アナログ盤では、1〜5曲目までがA面にあたる。
Buddhaレーベルから出ているCDにはボーナストラック2曲が追加されている。どちらもRobert Frippさんのソロアルバム Exposureの時に録音されたもの。Exposureを持っているのなら、このボーナストラックは気にしなくても良い。
Bonus tracks
11 You burn me up, I’m a cigarette
12 North star
ここまでアヴァンギャルドだの、発売自粛しただの聞いていれば、多少緊張してこのアルバムを聞くだろう。すると1曲目はとても軽快なロックンロールで始まる。なんだ普通のアルバムじゃないか、と驚くに違いない。なんでこんなアルバムがしばらくお蔵入りにされちゃうんだ? と。
ノリノリのノリスケ状態で聴いていると2曲目の途中で突然ピロピロピロピロピロピロピロピロピロ〜、と変な音(Fripp先生の改造ギターの音色なのだが)が闖入してくる。なんだこれは? まあ良いかと気にしないで聞いていると、気がつけばドロドロのFrippワールドに突入してしまうという展開がA面の特徴。
5曲目NYCNYで聞かせるDarylさんのボーカルはもう狂気そのもの。冒頭からほんとしびれるようなリフを繰り出していたFripp先生のギターは、曲の終りにはもうノイズマシーンと化す。そしてそのギターを追いかけるかのように、Darylさんは絶唱し、最後には白目を剥いてシャウトしているんじゃないかと思うくらいだ。こんなDarylさんはここでしか聞けない。
この曲で聞こえるDarylのボーカルはもう、Frippに憑依されてしまったとしか言いようがない。ここまできたら完全にFrippの操り人形と言ったら言い過ぎか?
純粋なHall & Oatsファンがこれを聞けば、確かにびっくりだろうと思う。ところがCrimsonファンはこれを聞いてほくそ笑むのだ。
5曲目でこんなことになるのだから、6曲目(B面)はどんなことになると思いきや、曲調は一転してじっくりと聴かせる歌が続く。ブルー・アイド・ソウル(←死語だよな。もっといい表現はばないのものか?と思う)の面目躍如と云ったところだ。でもところどころでピロピロピロが聞こえるのは、Fripp先生の意地なのだろう。
そんな訳で、この「Sacred songs」と云うアルバム、Daryl Hallのソロアルバムと言うよりも、Fripp & Hallと言ってしまいたくなるような作品に仕上がっている。これでもFripp先生はDarylさんに遠慮しているのだ。遠慮していなければ、Fripp先生のソロアルバムExposureになってしまう。
David BowieはFripp先生と云うモンスターを上手に手懐けて、作品の出来を別次元に押し上げてしまった。だけどもDarylさんはそんな妖術は持ち合わせず、物の見事にモンスターに食われてしまったという感があるのがこの作品。
アルバムの背景
DarylさんとFripp先生というのは、かなり異色の組合せに思える。そもそもの出逢いは、Wikiの記述によると、1974年にさかのぼると云う。その時、そのうち一緒に音楽をやろうと云う話になったようだ。
そしてFripp先生が出家から戻ってくると、Darylとの約束を果たすために、早速この様な作品を作ってみたというわけだ。ところが1974年当時のDarylと違い、この頃の彼はもう既に売れっ子になっていた。その為アルバムは3年もの間発売が見合わされてしまう。レコード会社としては、商品イメージにキズをつけたくなかったのだろう。
その間この2人は黙ってはおらず、出来上がった作品のテープをジャーナリストや著名DJに渡すなどして、レコード会社に圧力をかけたと云う。その努力が実り、1980年にようやっとアルバム発売にこぎ着けたというわけだ。
このアルバムの参加ミュージシャンは、Darylの意向もあり、Hall&Oatesのツアーバンドのメンバーを起用して行われた。
ボーナストラックの2曲に関しては、ドラムがPhil ColinsにベースがTony Levinが演奏している。Exposureのセッション時のものだからだろう。
Daryl Hallとの共作がKing Crimsonの復活に繋がった!?
Sacred songs制作後も、DarylとFripp先生は継続的なバンドを結成する構想があったと云う。ドラムはPat Mastelotto、ベースはTony Levinというメンバーだったらしい。
ところがPatの代わりに、Bill Brufordが加わることになり、残念なことにDarylさんにはフラれて代わりにAdrian Blewがボーカルを務めることになった。
そのバンドはDiscipleと名付けられ、その後みなさんご存知のKing Crimsonの復活となる。そう考えると、このHall&FrippはKing Crimson再結成の発芽でもあるわけで、Crimsonファンにとってとても興味深い作品とも言える。
それにしてもDaryl HallがメインボーカルのKing Crimsonを聞いてみたかった。80年代Crimsonは決して嫌いではない。面白い音で大好きではある。だけどもやはり、素晴らしいボーカルが歌う、美しいメロディーを奏でるKing Crimsonを聞いてみたかったのだ。
Robert Frippはなんといってもリフの人で、メロディーメーカーじゃない。Fripp先生の作品を聞き続けてオレはそう確信している。Fripp先生は素晴らしいメロディーメーカーと組んでこそ、本当に素晴らしい作品を残せるのだ。
Daryl Hallのこのソロは言うに及ばず、David BowieのScary Monsters、Sylvian & Fripp、Greg Lakeの居た60年代Crimson、John Wettonの70年代Crimson、みんな素晴らしいボーカルが居たからこそ、素晴らしい作品を残せたのだ、Fripp先生は。
なるほど。傍にあれだけ優れたメロディメーカーがいてくれたおかげでCrazyなリフだけでなくメロディアスなソロが生み出されていたワケですね。なんかストンと腑に落ちた気がします。CrimsonでのWetton/Brufordのリズム隊はFrippも手を焼くほどの兇暴さでしたがその実Wettonは「メロディ命」の人でしたし。
それにしてもYouTubeのDaryl’s HouseがまさかのFripp翁をゲストに迎えSACRED SONGSからの曲を44年ぶりの生演奏で視聴できる日が来るなんて….
演奏の出来もあの「気難しさの権化」だったFripp翁をして「ヨメと出会って以来の最良の日だ。」と言わしめるほどのゴキゲンっぷりでした。
ボブさんがゲストのDaryl’s houseは面白かったですね。しかもあえてインスト曲のRedをやるとは。楽しませてもらいました。