The Kinks/The Village Green Preservation Society キンクスのヴィレッジ・グリーン・プリザヴェイション・ソサエティは流行りに背を向けたからこそ生まれた傑作 part1
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流行りものには飛びつかない。これぞThe Kinksの真骨頂 それがThe Village green Preservation Society
そのころのロックバンドのほとんどが、頭がイカレテ、そのイカレタ頭でイカスアルバムを作り上げたのが1967〜1968年という時代だった。猫も杓子もサイケデリックに飛びついた時代だった。 そんな時代に我等がThe Kinksもアルバムを1968年に発表する。そのアルバムはThe Kinksのファン投票でたいがい1位に選ばれる。それが大傑作アルバムThe kinks are The Village Green Preservation Society(以下VGPSと略す)という長いタイトルのアルバムだ。
1968年の作品だから、このアルバムを聞いたことのない人は、きっと頭ラリラリサウンドが飛び出すと予想してもおかしくはない。The whoもThe Rolling stonesも、この時期にはラリラリサウンドのアルバムを作った。猫も杓子も流行りの音に飛びついた時代だった。
ところがへそ曲がりの、ひねくれ者の王道を行くThe Kinks様は、世間の皆がやっている事なんかハナも引っかけない。なんとサイケデリックが咲き乱れる時代に、なんとも地味なド・フォーク・ロックアルバムを作り上げてしまったのだ。それがVGPSなんだ。 世間ではサイケが、意識の拡張が、LSDがと、ぶっ飛んでいるさ中、The Kinks様が作り上げたのはとってもアコースティックなアルバムだった。
人と同じ事をするなんて、それはロックじゃないのだ。流行りものに飛びつき、同じ格好をして、似たり寄ったりの歌を歌う。そういう事は工場で大量生産された脳無しのプラスチックマンのする事なのだ。だからThe Kinksはそんな流行りには背を向けた。
そんな時代に、そんなアルバムを出すもんだから、もちろん商業的には大失敗する。これぞThe Kinks。ところがこんな地味な作品が忘れ去られてしまうどころか、カルト的にジワジワと時代を超えて人気を得てゆくんだから面白い。
VGPSこそ究極のサイケデリックアルバム
VGPSの音は牧歌的とすら言えるフォークソングの数々が納められている。そして音同様アルバムで歌われている内容も又、全くロックぽくないのだ。
かつてイングランドの各町中には、皆が集う公共緑地(Village Green)があって、そこで人々は憩いの一時をすごしたという。そんな公共緑地を保存して守ろうというのが、このアルバムタイトルの意味なのだ。 このアルバムで歌われている各曲も、そうした古き良きイングランドの風習や生活について歌われている。
それは今じゃ失われてしまい、もはや記憶の中にだけ存在する物事だ。古き良きイングランドの思い出がこのアルバムに納められている。 一般的にロックという音楽に抱くイメージの、真反対を彼らはこのアルバムで表現した。なんという時代倒錯ぶり。時代感覚皆無の音が詰ったアルバムだろう。
The Kinksは騒々しいサイケの時代にあえて背を向けて、自分の心の中を覗き込むような、自分たちの心の奥底にあるアイデンティティを再確認するような、そんなアルバムをつくりあげた。 そうなのだ、あれこれ騒がしくロックだ、ニューロックだとカッコをつけても、その各々の心の奥底には、そうした古き良き時代への郷愁を誰しもが抱えている。
それはかっこ悪い、古いものとして捨てられてしまった物事だ。そうした習慣、景色は誰もが心の奥底にそっとしまい込んでいる。それはどんなに派手でカッコつけたロックミュージシャンでも。
Ray様は、そんな心の奥底を歌と云う形で、そーっと静かに覗き込み表現したのだ。 そういう意味では、これぞサイケの究極のアルバムともいえる。心を外に拡張するばかりがサイケじゃないのだ。こころの奥底に潜む、忘れられない思いに光を当てる事こそサイケデリックじゃないのか? 心の中こそ、広大な空間が広がっているのだ。
The kinks are The Village Green Preservation Society収録曲
A面 1 The Village Green Preservation Society 2 Do You Remember Walter? 3 Picture Book 4 Johnny Thunder 5 Last of the Steam-Powered Trains 6 Big Sky 7 Sitting by the Riverside B面 1 Animal Farm 2 Village Green 3 Starstruck 4 Phenomenal Cat 5 All of My Friends Were There 6 Wicked Annabella 7 Monica 8 People Take Pictures of Each Other このアルバムの制作にあたって、レコード会社の意向もあったり、Ray様のやりたい事をやり通したいという意志もあったりで、リリースに紆余曲折があった。15曲版が最終系なのだが、その前に12曲版が短い間だがリリースされている。そのあたりの事情はここでは省くけれども、参考情報としてウィキペディアへリンクを張っておく。 ■リンク:ウィキペディアのヴィレッジ・グリーン・プリザヴェイション・ソサエティの項
Village Green買うなら最新リミックスがあたしのオススメ
さてここまで長々と語ってきたが、VGPSをいざ買おうとするといろんなエディションが出てくるので迷うことだろう。それぞれ異なったボーナストラックが付いていたりするので、どれを買えばいいかととても困ってしまう。 実を言うとあたしもVGPSは3組持っている。1998年ごろにでた日本ヴィクター盤に、2003年の3枚組Deluxe edition、そして2018年にBMGからリリースされたリマスター盤がCDラックに並んでいる。 そんな事でどれを買えばいいかと相談されたならオススメするのは、やはり最新の2018年盤だ。なんといっても音の分離度、分解度が圧倒的に高い。その為ものすごくクリアに、そして生々しく各楽曲が響く。スタジオの空間の音まで聞こえてくるようだ。 とにかくボーカルの表現力が良い。リード、コーラス、共に非常にクリア。まるで耳元で歌っているようにクリアに聞こえる。コーラスは1人1人の息遣いが聞こえるかのようにとても鮮明になっている。コーラスと、リードボーカルが混じる事なく、くっきりと、輪郭がはっきりしている。 また、ギター、ベース、ドラム、どの楽器も分離がしっかりして、生々しい。ソロパートになると、まるで目の前に出てきて弾いているような錯覚を覚える。 ギターは弦が震えているのが見えるような、ドラムはハイハットが叩かれ振動しているような、ベースはアンプのコーンが震えているのが見えるようだ。指が弦に当たるのが見えるかのような、ミクロの再現性。とても50年以上も前に録音された作品とは思えない音なのだ。 細かくあげると切りがないのだが、特にぞくっとしたのはPicture bookのコーラス部分だった。 「ピクチャ〜ブック、ラーらららラー。らーらららら、ブギウギウー」 と歌う部分がある。最初に2018年盤を聞いた時に、そのコーラスの声の生々しい事に驚き、震えがきた。耳元にメンバー数人が立って歌っているように聞こえるのだ。 2018年リマスター盤は、とにかく生々しくクリアなのだ。
オリジナルメンバーPete Quaife 最後の作品
残念な事にVGPSを最後に、60年代のロックバンド屈指の良い男、Pete Quaife はThe Kinksを脱退してしまう。この時代Peteほどの男前がどのバンドに居たというのだろう。とっても残念だ。 そしてPeteはThe Kinksのヴィジュアルを大きく引き上げたのみならず、彼のベースがあったからこそ、The KinksはThe Kinksたりえたと思うのだ。Peteはただ単にリズムをキープしていただけじゃない。彼のベースプレイは、The Kinksに独特のノリを生み出し、そしてRay達が書いた曲に、深み、表情など雰囲気を付け加えている。60年代のThe Kinksのあの何ともいえない雰囲気は、Peteがベースを弾いていたからこそだせたと、あたしは思う。 The WhoのJohn Entwistleもかつて「PeteこそTheKinksなのだ」と語っているのを読んだ事がある。まったく彼の云う通りだ。Peteが去ってからのThe Kinksは傑作アルバムを次から次へと作り続けてはいるものの、初期のころのあの何ともいえない雰囲気が味わえないのがとても寂しく感じる。 そんなPeteのベースが活きまくっているのが、The Kinksファンみんなが大好き、Village Green Preservation Societyなのだ。 是非皆にこの傑作アルバムを聞いて欲しいといいたいところなのだが、一つだけ注意点がある。このアルバムを心底楽しむ為には、是非他のThe Kinksのベストアルバムなり、シングルコレクションなりを少なくとも1年間は聞き続けてから、このアルバムを手にして欲しい。 いきなりこのアルバムからThe Kinksを聞き始めるのは間違っていると思う。なのでThe Kinks初心者は、あたしが以前書いたこの文章をじっくりと読んでからVGPSに取り組んで欲しいと思うのだ。余計な老婆心かもしれないが。
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