エイプマンの歌詞を読み、真のキンクスファンになった話 The Kinks/Apeman(1970)
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60年代後半のザ・キンクス
アタシが本当にThe Kinksのファンになった瞬間というのがある。今回はそのことについて語ろうと思う。
もう40年の昔になるが、まだ高校生だったアタシはPYE時代の2枚組のコンピレーションアルバムを熱心に聴いていた。1枚目が初期のビートバンド時代の楽曲が納められており、2枚目は60年代中期から後期のフォーク調や楽団風の曲が収録されていた。アタシが聞くのは決まって1枚目のビートバンド時代の楽曲ばかりだった。
なんといってもその頃のアタシにとっては、The Kinks=ビートバンドだったのだ。ビートバンドのThe Kinksしか好きになれなかった。The God father of the punk rockである。
コンピレーションの2枚目の楽曲群は、あたしの耳にはとても同じバンドの出す音とは思えなかった。そんな軽く明るく楽しい曲の数々は、当時のアタシには何が良いのかサッパリ分らなかったのだ。
何が良いのかサッパリ分らなかったエイプマン
そんな理解不能の筆頭曲は、やはりApemanだろう。なんなんだこのうかれ具合は? これが同じバンドの曲なのか? あのキレの良いビートは何処へ行ったのだ? それがApemanを初めて聞いた時の率直な感想だ。
南国のカリプソ風の陽気なとてもゆるい曲調。のほほんとお猿さんが陽光を浴びて日向ぼっこをしている姿が目に浮かぶ。なんでこんな変な曲が大ヒット曲なんだろう? とその頃のアタシはこの曲が全く好きじゃなかった。
どうしてこんな曲が、ライブでは大合唱になるのだろう? と、とても不思議でしょうがなかった。だってちっともカッコよくないじゃないか、こんな曲。ところが、、、、、。
軽快な曲調に反して実に深刻な歌詞!
そんなアタシに転機が訪れた。暇な時間が溢れるほどある高校生時代、いや実際は受験勉強を一生懸命にやらねばならない時でもあった。そんな時に限って何故か、アルバムについていた歌詞カードを一生懸命に読んでみたりする。1種の現実逃避だ。何となく彼らが何を歌っているのだろうと気になったのだ。
初期のyou and me時代は実にたわいのない歌が多かった。君に夢中だとか、君が僕に何かしてくれたとか、どうってことはない歌ばかりだ。
予想通り、たいした事を歌っていないんだね〜と読み進めて行った。ところが、Apemanの歌詞を読んでいて違和感にとらわれた。辞書を引き引き歌詞の意味を引き出してみると、どう考えても深刻な内容なのだ。そこには核戦争や大気汚染なんて単語がちりばめられていた。
いったい、こ、これはなんなんだ?
Apemanの歌詞から読み取れた内容とは、現代社会に疲れ果てた男が、南の無人島へ流れ着きたいという実に厭世的な歌だったのだ。交通渋滞、大気汚染、核戦争の脅威、そんなものに曝される人間社会はすっかりうんざりだ。だから類人猿(Apeman)にでもなって、こんな社会からおさらばしたいと歌われている。
この曲がヒットした時代は、意識の改革だの、精神の拡大だのと騒がれていた時だった。そんな時にThe Kinksはこんな社会に飽き飽きして、類人猿に退化してしまいたいと歌っていたのだ。ストレートな社会批判よりも、この方がずっとずしりとそのメッセージが腹に響く。進化って本当に良いものだったのだろうかと。まったくもって、なんてロックバンドなんだろう。
その時にアタシはこのバンドのスゴサに始めて触れた。表現するという事の凄みに触れた。そしてその時アタシは、本格的なThe Kinksファンの道へ足を踏み込んでしまったのだった。
■リンク:Apemanの英詩
■リンク:Apemanの日本語訳詩
Apemanについて
Apemanは1970年11月20日(U.K)に、シングルとしてパイレーベルからリリースされた。B面はDaveのRatsが収録されている。
曲の構想は1970年の夏にRay様が家族旅行でコーンウォールに行った歳に浮かんだという。きっと渋滞に巻き込まれた不快な思いや、たどり着いた海岸がゴミだらけだった等、いろんな現代の負の面が目につきうんざりしたのだろう。
その体験が、何処か人のいない静かでキレイな場所に行ってしまいたいと云う歌詞に反映されのだろうと思う。そもそも彼は内向的な、引きこもり人間なのだからなおさらだ。
この頃にはヒット曲に見放されたThe Kinksではあったが、Apemanはそこそこ売れて、U.Kでは最高位5位につけている。これはThe Kinksにとって最後のトップ10ヒットになってしまった。
ファンにはお馴染のあのプロモーションビデオでは、新規加入したキーボードのJohn Goslingが猿の着ぐるみを着ている。一見楽しい陽気なビデオに仕上がっているのだが、その猿に説教でもするかのように語りかけるRayの眼光は鋭く、ちょっと狂気を帯びているように見えるのはアタシだけだろうか?
そんな事でアタシは、エイプマンで真にThe Kinksに目覚めたのだ。
是非ともThe Kinksの歌は、歌詞までじっくりと目を通して聞いて欲しい。The Kinksはロック音楽を、アート、文学にまで高めたグループなのだ。
■リンク:Apemanスタジオライブ エイプマンがキーボードを弾いているw
※正直なところ、廃盤ばかりでお勧め出来る良いベストアルバムが無いのがとても残念だ。
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