爆風スランプの「Jungle」こそ、彼らのピークだった

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すっかり衰えたサンプラザ中野にびっくり!


 先日BS-TBSの新番組「Live on!」に、サンプラザ中野とパッパラー河合さんがゲストとして出ていた。彼らを見るのは実に久しぶり。まず驚いたのは、サンプラザ中野の老け具合。顔にハリは無く、肌の状態もなんだか老人のようだ。スキンヘッドだけに、よけい老人ぽく見えてしまう。

 更に驚いたのは、歌を歌った時の事だ。彼の声には張りも伸びも無く、あの声量も無い。がなる様に歌っていた中野がこんなにも声が出なくなっているとは! それどころか音も不安定で、自分の持ち歌だというのに、音も時々外れているじゃないか。歌っている動作もぎくしゃくとしか動けず、まるでリハビリ中の老人のようだった。まだ還暦前だって云うのに、この痛々しすぎるたたずまいに、彼は何か病んでいるんじゃないだろうか? と、とても不安を覚えた。

爆風スランプはオレの青春バンドの1つだった


 爆風スランプはオレの青春バンドの一つだだと言っても良い。彼らがTVに出れば録画して、何度も繰返し見ていた。そんな若い頃の彼らの姿がしっかりと脳裏に焼き付いているだけに、今現在の姿を見てしまうと、衰えがより増して見えるのは仕方がないのかもしれない。それにしても、あのパワフルな動きが、30年でこんなにも奪われてしまうとは。見ていて涙ぐんでしまった。

 オレが子供の頃母親が懐メロ番組を見て時折涙ぐんでいた。その時何を思っていたのかが、今よく判った。母親はただ懐かしがっていたのでは無く、敬愛する歌手の衰え具合、そして自分もそれだけ歳をとってしまったという事に対して、涙ぐんでいたのだ。

 それはさておき、我が青春の爆風スランプは、デビュー当初は派手なパフォーマンスと、コミカルな歌で面白いバンドだと思われていた。笑撃のデビューで話題になったが、次第にバンド路線に迷いが生じてくる。アルバムを重ねる毎に、そういう影が現れてくる。面白い歌のバンドで行くのか、実は生真面目なバンドとして売りたいのか、その揺れ動く振幅をファンも感じていたのだ。そこそこは売れるけれども、彼らがいまいち人気バンドに成り切れなかったのは、そのあたりに原因が有ったに違いない。

彼らの最高傑作はの4作目「Jungle」


 「Jungle」は彼らの4作目のアルバムだ。発売は1987年の10月1日。オリコンで最高8位の記録を残している。今聞いてみてもこのアルバムの出来はとても良い。楽曲も良く、歌詞も良く、演奏も良い!

 だが、内容の充実ぶりに反して、期待したほどは売れなかったようだ。バンドメンバーもその事を氣にしていたようだ。その当時の渋谷陽一が爆風スランプに対してこんな事を言っていた。

「良いアルバムを作ったからといって、すぐに売れるものでは無い。だけども良いアルバムを作れば、必ずその次の作品が売れるものだ」と。

 だから爆風スランプは、頑張って5枚目を作れ、と励ましていた。

 その渋谷陽一の言葉の通りに、5作目の「High Lander」はとても売れた。おまけに「Runner」も大ヒットした。さらにその次の作品「IBW」も大ヒットした。売り上げとしてはその頃が爆風スランプのピークだったろう。だが、

 だけれども、今現在から当時を俯瞰してみるなら、やはり「Jungle」こそが、爆風スランプのバンドとしてのピークだったんだなと改めて思う。バンドの路線をぶれずにしっかりと見極め、そして最も創作エネルギーが高まった時だからこそ、「Jungle」という傑作アルバム誕生したんだと。

 
 「Jungle」から爆風スランプはがらりと変わった。その一番の要因は新田一郎をプロデューサーに迎えた事だろう。このアルバムのサウンドは、遠慮なく実に硬派なファンク・ロックに仕上がっている。アルバムの冒頭から怒濤のようなサウンドが押し寄せてくる。本当に押し寄せてくる。おちゃらけた歌が無い。

 多分彼らはこの時代の最強のファンク・ロックバンドだったと思う。この頃の江川ほーじんとファンキー末吉の組み合わせは、日本のロック史上最強のリズム隊といって良いと思う。河合さんのギターがもうちょっと強力だったなら、Red Hot Chillipeppersだって凌いだろう(多分、新田一郎がもう少しギターの扱いにセンスが有れば、河合さんのギターがより生きたと思うのだが….)。

 新田一郎と云えば50歳以上の人なら覚えているだろう、あのスペクトラムのリーダーだ。トランペット片手に、ファルセットボイスで「In the space♪」と歌っている姿が目に浮かぶ。

■甲冑のような衣装を着て、トランペットやベースをぐるぐると回しているスペクトラム

 そんな彼が爆風スランプをプロデュースするとなれば、ホーンセクションを全面的に導入しないわけがない。アルバム全体にホーンスペクトラムのホーンが鳴り響く。そのおかげで曲のメリハリ、アクセント、スピード感が増してアルバムに深みを与えている。この頃の爆風スランプは、ライブでもホーンスペクトラムがサポートしていて、実に素晴らしいファンク・ロックを演奏していたのをオレは目撃している(1988年の新宿厚生年金会館やTVで)。

★アルバムのA面
1 The Tsurai
2 星空ダイヤモンド
3 終わる恋じゃねえだろ
4 風の音
5 雨だれ
6 夕焼け物語

 アルバムは1曲目の「The Tsurai」から、遠慮のない超強烈ファンク・ロックで始まる。火を吹かんばかりのホーン、それに負けじと中野のボーカルの力の入り方も並じゃない。

 もう江川ほーじんのベース・ギターは、リードギターのように、曲の全面に響き渡り、まるで彼のソロアルバムのようだ。曲の途中に入るベースソロに、もうしびれまくる。4曲目まで怒濤のファンクサウンドで押しまくり聞くものを一気に畳みかける。5曲目で河合さんのギターソロのインストルメンタル曲で一息ついた所で、6曲目の必殺の切ない青春ソングにつないで行くA面の展開。怒濤のファンクから、感涙間違いないセンチメンタルな曲までのこの流れは完璧だと思う。

 「夕焼け物語」は、青年になった私が、高校時代を振り返る青春歌謡曲だ。当時のオレも涙ぐんで聞いていたものだ。だが、まさか50歳を超えたおじさんの胸をも、ここまで切ない気持ちにさせてしまうとは。そうなんだよ、20代だって青春時代なんだよ。30年も時間が経つと、同じ歌の意味が違ってくるのが面白い。この曲が爆風スランプ一番の名曲だとオレは今でも思っている。

★アルバムB面
7 スーパーラップX
8 映画通り
9 恋はワンルーム
10 More than true
11 愛がいそいでいる
12 東の島にブタがいたVol3

 B面は河合さんの趣味の世界から始まる。ラップとは名ばかりで、King Crimson、Robert Frippモドキの、変態プログレラップ曲。The PoliceのsynchronicityでAndy Summersが歌うMotherのようなものだ。アルバムと云う一つの流れの中で、息つく暇を与えるこういった曲はとても大事なのだ。

 怒濤と緊張のA面に対して、どちらかというと歌謡曲調、フォーク調の曲が目立つのがB面。だけどもあまりにも普通すぎる歌詞と曲調、だけども超ドファンクの演奏をマッチさせるなんて芸当は、この時期の爆風スランプだけにしかできなかったと思う。

 そして12曲目で、再び重戦車がエンジン全開で真っ正面から突っ込んでくるようなサウンドでアルバムの最後を飾る。ファンキー末吉と江川ほーじんのリズム隊はとにかくすごかった。それだけに河合さんのギターがもう少し上手かったら、もっとすごい作品になったのにと悔やまれる。いや、だからこそこれが爆風スランプなのかもしれない。

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爆風スランプの殆どのCDは現在廃盤


 今現在これらの爆風スランプの作品をamazonで買おうとすると、中古かダウンロード、ストリーミングしかない。何と爆風スランプのこの頃の作品は全て廃盤なのだ。

 CDという媒体の需要は急速に収縮していると聞いたが、気が付くと多くのアルバムがCDでは買い辛くなっている。中古盤を探すか、ネット配信で聞くしかないのだ。

 この大傑作「Jungle」が発表されたのは1987年の10月。その翌年にはLPとCDの出荷数が逆転し、多くのレコード屋がCD屋に切り変わったた時期だった。

 今度はそのCDが消滅するのをこの目で見る事になるとはね。おじさんが子供の頃はまだ、オープンリールのテープですら、カセットテープの横で普通に売っていたんだけどね。

http://rollingstonejapan.com/articles/detail/29034

 今や彼らの作品は中古盤で買うか、デジタル配信で買うしかないのか。なんとも複雑な気持ちだ。

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