ジャックスの絶頂と終焉 2021年に発売された2枚のライブアルバム
2021年は驚くべき事に、ジャックスのライブアルバムが2枚も発売された。きっとジャックスは今が旬なんだろうと思う。バンド解散から50年が過ぎたというのに。
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絶頂期のライブ「2nd Jacks Show, Jul. 24, 1968」
2021年8月25日に発売されたこのアルバムは、第2回ジャックスショーを収録したものだ。実はこのアルバム、1973年に一度リリースされている。なんとプライベート盤として権利者に無許可で制作され、ファンクラブの会員向けに実費で販売されたという代物だ。
その私家盤が世に出た経緯も面白い。ジャックスの1ファンがこの日の演奏を会場録音した。それを数年後谷野ひとしさんに献上した。そのテープが谷野さんから知人に渡り、その人が私家盤としてLPレコードを制作したという。そのようなアルバムなので、それ以降日の目を見る事が無くなってしまった、幻のライブアルバムだったのだ。より詳しい経緯は、CDのライナーノーツを参照してちょうだい。
そんないわく付きの「私家盤」が、今回権利者にちゃんと許可をとって、公式に発売される事になった。ありがたい事だ。といって元のテープは現存せず、件のLPをマスターとし、デジタル処理で音質向上させて今回の発売につながったという。長年暗闇に潜んでいた物の怪が、日のあたる世界に出てきたようでとても興味深い。
ライブの収録日は1968年7月24日。お茶の水の日仏会館で行われたライブが収録されている。ここに収められているジャックスの音はすさまじい。ほんとすさまじいライブが記録されている。これぞまさに、ジャックスの絶頂期を捉えた音だといって間違いはないだろう。
オレがこれまでに聞いた彼らのライブは、1969年3月21日の大阪厚生年金会館中ホールで行われた第3回ジャックスショーのアルバム(Jacks CD box収録)だった。そのアルバムの演奏は実に耽美的で静かなものであった。なのでこれまでオレはジャックスのライブとはこんなものなのかな? という思いでいたわけだ。
そんな事もあって今回のライブアルバムも、たいして期待はしていなかった。長年のファンとしては、コレクションを増やす程度の気持ちで買ってしまった。
それが大間違いだった。このアルバムは1曲目のマリアンヌから、腰を抜かすんじゃないかというほどの衝撃をオレは受ける。これまでオレは何も知らなかった、ジャックスのライブの何がすごかったかを。まさか、これほどまでにすさまじい演奏だったとは。彼らの長年のファンのつもりでいたが、オレはジャックスについて何も知らなかったのも同然だ。
1968年6月24日というのは、ちょうど1stアルバム「ジャックスの世界」録音直後と云う事になる。傑作アルバムを完成させ、これからオレ達が世界を変えるんだという、野心に充ち満ちた彼らの姿が音から伝わってくる。
だが、このライブの2ヶ月後に水橋春夫さんはバンドを脱退してしまう。「ジャックスの世界」発売直後の話だ。そんなわけで、このアルバムに収められた音は、まさにとても短いジャックスの絶頂期を記録した貴重なアルバムなのだ。ここにはジャックスというバンドの臨界点が記録されている。まさにジャックスの奇跡だ。
この渾沌に名前を付けよう、ジャックスと
「ジャックスはステージで会話しているんだ」と谷野ひとしさんは言う。ここに収められた音はまさにその言葉がぴったりだ。早川義夫さんの叫びの狂気が高まれば高まるほど、木田高介さんがぶっ叩くドラムがより響き渡る、まるでドラムがリード楽器になったかのようだ。
ベースの谷野さんもそれに負けじとビートを刻む。その3人に絡まる水橋春夫さんのギターは歪みまくり、うなりまくる、まるで蛇のように。ステージにいたのは言葉を忘れた4人の男たちの、エネルギーの会話なのだ。そんなステージでただ早川さんのリズムギターだけが、醒め切って淡々とリズムをキープしているのが面白い。
ステージに立つ4人が、持てる情熱の全てを、ありったけの力を込めてこの世に何かを生み出す作業、それがロックバンドのライブなんだ。これほどの音が残されていたことに感謝したい。
録音は客席からのモノラル録音だから、音質は良くはないし音の広がりはない。だけども己の中に潜む暗い情念を、表現としてステージで表出したロックバンドの姿が克明に記録されている。こんな表現が出来るバンドは、ジャックス以外に誰が居ると云うのだろう。
この渾沌に名前を付けよう、ジャックスと。1968年は、ほとんどの者が知る事無く日本ロック史の頂点が密かに刻まれた年だった。これはその記録だ。
2nd Jacks Show, Jul. 24, 1968 収録曲
- マリアンヌ
- お前はひな菊
- この道
- 時計をとめて
- いい娘だね
- 由美子はいない
- 敵は遠くに
- Dm 4-50
- 薔薇卍
- どこへ
- 裏切りの季節
- ラブ・ジェネレーション
- われた鏡の中から
- からっぽの世界
バンドの終焉を捉えた「Live, 15 Jun,1969」
このアルバムは2021年4月21日に発売された。これは1969年6月15日、KBS京都の公開番組「みんなで歌おうフォークフォーク」に出演したジャックスの演奏を、そのままアルバムにしたもの。当時のディレクターの蔵に、この音源テープが奇跡的に残されていた事が今回の復刻につながった。放送はされたものの、これはこれまでまったく未発表だった、貴重なジャックスのライブ音源という事になる。
1969年の6月と言えばジャックス解散直前の、彼らの最終期の姿を捉えた録音という事になる。ジャックスは1969年7月25日の「第5回ジャックス・ショウ」で解散宣言をして、翌月8月9日の第1回全日本フォークジャンボリーのステージを最後に消滅してしまった。このアルバムには、そんな彼らの終期の姿が、とらえられている。
ラジオで放送された録音そのままという事もあり、このCDにはMCも入っている。ラジオ番組という事もあって、ジャックスとしてはたった4曲しか演奏していない。貴重な音源ではあるが、この物足りなさはどうしようもない。
MCを務めるのがフォーククルセダースを解散したばかりの北山修さん。正直この人はMCには向いていないと思う。MCなんかいらないから、その分1曲でも多く唄って欲しかった。でもまあ当時の雰囲気を伝える、貴重な記録なのでまあよしとしよう。
1度聞けばそれ以降スキップしてしまうMCのトラックなのだが、北山さんが女性客に、「ジャックス知っていますか?」質問して彼女は即答で「知らない」と回答するやりとりだけは面白かった。
水橋春夫さん脱退のあと、ドラムにつのだひろさんを加えてジャックスは再編成された。つのださんの技量で、バンド演奏の安定感は向上したものの、ステージ上の狂気は鳴りを潜めてしまった。実は木田さんのドラムこそ、ジャックスだったのかもしれない。なのでジャックスをジャックたらしめていた、バンドの渾沌は消えうせてしまった。渾沌とはジャックスのエネルギーだったのだ。
悲しい事に、このアルバムからは、ライブパフォーマンスという名の「ステージ上での会話」が、聞こえてこない。ただそつなく演奏しているだけにオレには聞こえる。からっぽの世界が、本当にからっぽになってしまった。
そして早川義夫さんの声には、諦念が滲んでいるように聞こえる。1年間一生懸命に歌ってきたというのに、誰にもその言葉が伝わってこなかったという無念が。ジャックス解散の一番の理由を、後に早川さんが語っている「売れなかったからだ」と。
この寒々とした4曲の演奏から、オレはバンドの終焉を強く感じる。それはバンドの死相と言ってもいいかもしれない。このアルバムで聞こえる彼らの音は、向こう側が透けて見えるような気がする。そんなバンド消滅の姿がここには納められている。
そんな事でこれはとても貴重な演奏ではあるのだけれど、このアルバムはジャックスマニアにしか勧められない。ジャックス入門者が、間違ってこのアルバムを購入しないようにそう言い切っておく。ジャックスの奇跡を聞いたなら、次は先にあげた「2nd Jacks Show, Jul. 24, 1968」 を聞くと良い。
Live, 15 Jun,1969 収録曲
1 M.C
2 からっぽの世界
3 M.C
4 追放の歌
5 第5氷河期
6 遠い海へ旅に出た私の恋人
7 M.C
8 悪魔巣取金愚(ボーカル高石ともや)
9 明日なき世界(ボーカル高石ともや)
10 メンバー紹介
11 M.C そしてイエローサブマリンのイントロだけ
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