クリムゾンキングの宮殿(1969)、LPとCDで聞き比べ

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クリムゾンキングの宮殿(1969)、LPとCDで聞き比べをしてみた

アナログ環境が整い同じアルバムをLPとCDで聞き比べ

3年前から進めていたオーディオのアナログ化計画は、今年になってようやっと完成した。これでアナログレコードが再生出来るようになった。子どもの頃からアナログレコードの音に親しんだものにとって、久しぶりに聞いたLPレコードの音は、生々しく新鮮だった。

そこで思いついた。じゃあ同じアルバムをアナログLPとCDで聞き比べるとどう違うのだろう? という事で早速同じアルバムで聞き比べるという実験を行ってみた。

聞き比べるのは「クリムゾンキングの宮殿」。1969年10月に発表された衝撃のKing Crimsonのデビュー作だ。凡庸な出来のThe Beatlesの最終作をチャートの1位から蹴落したという、正に時代の変わり目に登場したアルバムだ。

そのアルバムをLPとCDで聞き比べてみるという実験を行った。同じアルバムを違う媒体で当たり前のように所有しているのがおじさんの証明。

聞き比べたLPとCDについて

今回用意したアルバムを紹介しよう。LPは1980年に購入したもの。当時King Crimsonの作品はアトランティックレーベルからリリースされていた。エンボス紙のダブルジャケットに納められていたもの。この当時はレコードがすり減るのがもったいない事から、カセットにダビングして聞いていた。なので再生回数も10回以下という、新品に近い状態のアナログディスクだ。

それに対してCDはというと、1999年ポニーキャニオンから発売された、30周年記念リマスター盤。こちらのCDはアルバム発売30周年を記念して新たにリマスターされたもの。いわゆる30th anniversary edition。

そしてこのCDは24金の記録面という豪華仕様になっている。通常はアルミを使っている記録面に金を使っているので、CDが金色に輝いているのだ。見た目もとても豪華だ。金を使うメリットは、音の忠実度が非常に高いといわれている。アルミのように腐食しないので、記録面に穴が開かない。LPの勝負相手としては不足なしのCDだろう。

ついでにアナログ再生環境はと云うと、プレーヤーはTechnicsのSL-1900。40年以上前の古いプレーヤーだ。使用したカートリッジはShureのMMカートリッジ・72Bという組合せ。アナログ環境としては別に高級なものでは無く、極くありふれた入門機種で再生してみた。

CDプレーヤーはマランツのCD6007。エントリーモデルではあるが、音質は値段以上のものがあると評判の機種。アンプも同じくPM6007。スピーカーは自作のバックロードホーンで再生してみた。

はたしてLPとCD、どれほどの差があるのか?

LPとCDでクリムゾンキングの宮殿を聞き比べた、その結果


LPのクリムゾンキングの宮殿の印象

あたり前の話だけれども、LPの音はクリアさには欠ける。無音部分にどうしてもヒスノイズが入ってしまうのは仕方の無い事。CDに慣れ過ぎた耳には、どうしても気になる。あと針の調整がイマイチの為か、無音部分で針のこすれるような音が聞こえる。

とは言え、なんと言っても中音域の厚みはとても魅力的だ。こんな廉価なカートリッジだというのに、まるで音が手につかめそうな質感で聞こえてくる。この音の厚みはCDではなかなか再現出来ないと思う。

そしてベース・ギターの音は太く分厚く響く。ボンボン響く感じだ。これはアナログならではの効果なのであろうか、ギターの音が60年代らしい、とても古くさく枯れた音に聞こえる。古くさく聞こえると書いたが、これが逆に心地良い響きなのだ。

特に21世紀の精神異常者(LPのライナーノーツではそう表記されているが、21世紀になって発売されたCDでは21世紀のスッキゾイドマンと改題されている)では、あの歪んだギターの音、そして間奏部分のサックスの音の分厚さは、CDでは聞けないものだ。そしてシンバルの響きもとてもリアルに聞こえてくる。

ただLPでは音空間に奥行きが感じられず、各楽器が平行に設置されて演奏しているような感じがする。そして各楽器の透明感は劣って聞こえる。とはいえ音の臨場感はさすがだ。叩かれたスネアドラムのスナッピーの震えが肌に伝わってくるようだ。

In the Court of the Crimson King [12 inch Analog]
Ais

CDのクリムゾンキングの宮殿の印象

金色に輝く30周年記念盤

それに対してCDの音はと言うと、当たり前だが無音部分のノイズがない。なので全くの無音から音楽が始まる。無音と有音の落差が大きいので、とてもダイナミックだ。

音空間はとても奥行きのある音に聞こえる。各楽器が前から後ろに立体的に配置されているように聞こえるのだ。スタジオ空間の音が聞こえるような気がするのだ。そして各プレーヤーの息遣いが聞こえてきそうな、音の分離、クリアさはLPにはないものだ。だけどもこれはひょっとするとリマスターのおかげかもしれない。

音空間が立体的な分、ギター、サックスがボーカルよりも背後に置かれ、ちょっと控えめに鳴っているように聞こえる。これはリマスターでこういう音にしちゃったのかな。そんな事から演奏が少しおとなしめに感じ、少々物足りなさを感じる。

音の輪郭がしっかりとしていることも、LPに比べると少しおとなしめに響く要因なんだと思う。これはデジタルの善し悪しだ。とは言え、ベースは十分に響いているが、音があまりにもくっきりとしすぎた事で、ドライブ感がLPに比べると少なく感じる。ドラムのタムタム、シンバル類の響きはとても立体的だ

圧倒的なメロトロンの響きの違い

以上が全体的な感想だが、個別の曲で云うとEpitaphでの音の違いが特に顕著に感じた。

LPで聞くEpitaphの何が驚異だったかと言うと、メロトロンの響きが圧倒的だった。中盤の間奏部分の盛り上がりは、CDじゃ絶対に表現出来ない音の広がりがあった。

スピーカから飛び出すメロトロンの音を例えるなら、CDでは霧のように広がるイメージだった。それがLPではまるでマシュマロか何かのように手で握られそうな、濃厚な物質的な音がスピーカーから流れ出てくる。

あたかも聞いている者を、濃厚なメロトロンの音が包み込むと表現したら良いだろうか。この表現の違いは、もう圧倒的だった。メロトロンの音に包まれ、陶酔してしまいそうになる。メロトロンの厚く、そして幻想的な響きが濃密に室内に広がった。

その他そしてクラリネットのソロパートは、LPではおどろおどろしさがいや増して聞こえる。アコースティックギターのソロパートでは、ギターの音がハッとして息を呑むほど、音の色つやがにじみ出ていた。

ただシンバル類に関しては、Epitaphの様に内周部は音の劣化が顕著で、音のエッジのシャープさが欠けてきこえる。シンバルの音が少し歪んで聞こえるのだ。これはLPの特性だから仕方がないだろう。

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40年以上前にクリムゾンキングの宮殿に足を踏み入れ

以上長々と書いてきたが、CDとLPでクリムゾンキングの宮殿はどれほど違って聞こえるのかを検証してみた。正確には同じマスターじゃないので、比較するには条件が整ってはいない。音の奥行き、立体感などはリマスターの成果だろうと思う。

だけれども、楽器の音の質感までは変えられない。特にメロトロンの表現は圧倒的な差があった。

そして面白いと思ったのは、エレクトリック・ギターの響き。CDではギターは実にクリアにシャープに、現代的な音に響いていた。一言で云うなら2022年に発売された音楽のように響いているのだ。

ところがLPでは、60年代の古くさいエレクトリック・ギターの響きに聞こえる。もちろんどちらの音が良いかなんてやぼな判断は出来ない。どちらのギターの響きも、心に響くのだ。

という事で、CDとLPという異なった媒体を使って、クリムゾンキングの宮殿の世界にどっぷりと漬かってしまったのだ。初めて宮殿に足を踏み入れてから、もう40年以上の月日が流れてしまった。あたしは未だに、この宮殿の中を迷い、さまよい歩いているのだ。もう抜け出す事なんか、とうの昔に諦めてしまった。

In the Court.. -Box Set-

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