十字路で悪魔に魂を売り渡す 音楽と犠牲
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音楽が生まれるには犠牲を伴う
音楽ってものは実はとてつもない犠牲を強いられる事なんじゃないかって最近思っている。多くのミュージシャンが酒に溺れ、薬に溺れ、生活が破綻したり、それでころか自ら死を選んでしまう人もいる。幸せな人生を歩んだミュージシャンなんて、ほんと一握りじゃないのか？ 巨大な成功を得たミュージシャンにしても、その影で多大な何か損害、損失のようなものを抱えている人もいるんじゃないのか。
そもそも音楽とは何処か天上の世界とでも云うような所から、精霊の様にミュージシャンに降りてくるものなんじゃないかなと思っている。その降りてきた音楽がすさまじいものであればあるほど、それをこの世界に現出させる役割を担ってしまったミュージシャンは、それに見合った恐ろしいほどの犠牲を払わねばならないのだ。それが創造の秘密だと思う。
そんな事に気がついたのは1960年代に大成功したミュージシャンが、27歳で次々と死んだことなどからじゃない。決してロックミュージシャンだけを見ていて思いついた話じゃない。
例えばクラシック音楽で云えば、モーツアルト、ショパン、シューベルト、ベートーベン、その他多くの著名な作曲家の生涯をみていると、決して幸せな人生を歩んだわけじゃないことがわかる。
今では数々の華やかな傑作曲で知られている彼らだけれども、音楽家自身の人生は、その音楽に反して決して華やかでは無かったようだ。彼らは病など死の恐怖が常に背後にぴったりと従い、不幸な短い人生を歩んだ音楽家が多い。
だが、その「不幸」こそが彼らが傑作を生み出す要因になっていたことが伝記などをみていると浮かんでくる。不幸、災厄、苦悩、そういったものと、生み出された音楽はとても密接に結びついている。
ロックミュージシャンの悲劇 イアン・カーティス
不幸にして早死にしたミュージシャンの中で、とりわけあたしが好きで堪らない人を紹介しよう。それはJoy DivisionのIan Curtisだ。 Ian Curtisは、Joy Divisionのボーカリストで、バンドの成功を目前にしながら23歳で自殺してしまったミュージシャンだ。
彼らの音楽を聞いた事がある人なら分かるだろうが、Joy Divisionの音楽は、激しく、冷たく、そしてとことん暗い。その音楽がこの世界に生み出される為には、何か巨大な代償が必要だったのではないか。その為Ianは過酷な人生を歩む必要があった訳だ。Ianと云う代償を、Joy Divisionに降りてきた音楽は必要とした。
ドラッグ。癲癇による苦悩。癲癇薬による鬱状態の悪化。そして妻と愛人との相克。Ianの心と体は、常に苦悩と不安に揺さぶられ、そしてバラバラに引き裂かれようとしていた。その悲惨な状況こそ、彼を通して生まれようとした音楽が必要としたものだとしたら。
一般的にはそうした状況がJoy Divisionの音楽に反映されて、あのような楽曲が出来上がったと思われている。だがあたしは、それは逆じゃないかと思っている。あのような音楽が産みだされるために、Ianがあの様な苦悩を背負わなければならなかったのじゃないかと。
音楽という存在が、彼の人生に介入して、常に死の絶望を突きつけたからこそ、あの様な楽曲が生まれることが出来たのだと。
十字路で悪魔に魂を売り渡す
ミュージシャンがこの世に音楽を生み出すためには、それ相応の犠牲を強いられるのだ。悲惨な体験、経験がそういう音楽を生み出すんじゃない。音楽がそれに相応しいミュージシャンを選び、彼、彼女にその音楽をこの世に送り出す為に、その音楽にふさわしい試練を与える。そう考えると音楽とは意志を持ち、そして実体化するには莫大なエネルギーを必要とする存在なんだと思う。音楽はとても恐ろしいものだ。
いやこれは音楽だけに留まらず、全ての創作活動に共通する事なのではないかとも思う。そうやって考えてみると、絵画、小説、その他ジャンルを問わず、そうしたアーティストに破綻した人が実に多い。
Robert Johnsonは十字路で悪魔と契約を交わし、素晴らしいブルーズ曲をこの世に残したと云う伝説がある。そのブルーズが後にロックを生み出した。その伝説が本当だとしたら、ロック・ミュージックは誕生から呪われているんだろうな。
この十字路の伝説は音楽が彼を責め、苦しめた結果、あの29曲がこの世に生まれて来れたことを、悪魔との契約に例えたんだとあたしは思っている。Robert Johnsonも奇しくも27歳で亡くなっている。いや27歳クラブは彼から始まったのだ。
音楽とはとても恐ろしいものなんだよ。
