「URCレコード読本」当事者が語る、日本のロックの黎明期

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URCレコード読本

「URCレコード読本」URC当事者が当時を語る

今年の8月20日に「URCレコード読本」と言う本が出版された。タイトル通り、日本のインディーレーベルの先駆け、URCレコードについて書かれた本だ。191ページのそんなに厚い本ではない。だがこの本収録された当事者の言葉はとても濃い。いかにURCと云うレーベルの活動がユニークか、その結果日本のロックシーンを生み出したという事が分かる。

URC当事者は語る。のちの日本のロック、フォークシーンを作り上げるミュージシャンがここに必然的に引き寄せられ、そして名盤を作り上げた様が描かれている。まさに表紙に書かれているとおりで、URCレコード所属のアーティスト本人、がURCの軌跡、そして日本のロックシーンの誕生を語っている。

歌謡曲や、その当時の大手のレコード会社所属の商業音楽とは違い、URCレコードのアーティスト達は「歌いたい事を歌う」「表現したい衝動があるから歌う」が基本だ。メジャーには発表の場が無かった者たちが、そんなURCレコードに引き寄せられてきたのだ。

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URCレコードは何故生まれた?


URCレコードが出来た理由は、大手レコード会社では、レコ倫(レコード倫理綱領)というものがあるので、歌詞や内容に制約が加えられる。だから自由に自分の好きな事を歌えない。

別に特別に過激な事を歌いたいわけじゃない。ただ誰からも規制されずに、自由に歌わせてほしいだけなのだ。それは誰もが持つごく自然な要望なのだ。だが大手のレコード会社じゃ、そうは行かなかった。

大手レコード会社から発売出来ないのなら、じゃあ自分たちでレコード会社を作り、従来の流通に載せずに、自分たちで売る(会員制通販)。そういった経緯でスタートしたのが、このURCレコードなのだ。

そうしてURCレコードでは、多数のユニークなレコードが制作された。歌謡曲、芸能界は存在していたものの、まだロックシーン(UCR所属のアーティストの多くはフォークなのだが、存在がロックでもあった)なんてものが影も形もなかったのが、1960年代から70年代の初期の頃。そんなURCの活動が、結果として後のロックシーンを作り上げる土台になってゆく。

当時の混沌とした日本のポピュラー音楽シーンの黎明期にはフォーク、ロックなんて区別は、あるようで無いようなものだった。自分の歌いたい事を、歌いたいように歌う。それがギター1本ならフォークになり、エレキギターならロックになった程度の違いだ。

そういった意味で、後の音だけ過激なパンクバンドなんかよりも、ずーっと激しい歌を歌うミュージシャンもURCからレコードを出している。一例を挙げるなら三上寛は生ギター1本で歌うが、彼こそまさしく日本のパンクロックの魁だ。

岡林信康がメジャーで出したレコードは演歌にしか聞こえないのに、URCで出したレコードはロックにしか聞こえない、と云った記述にURCの存在がどんなものか分かるだろう。

2020年2月3月にURCの名作アルバムが再発

URCレコードのアルバム

今年の2月、3月にかつてURCレコードから発売されていたアルバムが、20点ほど再発された。どのアルバムも興味深いものばかりだ。だがどれから聞こうかな? と迷っている方には、ベスト盤をお勧めする。「URC 50thベスト・青春の遺産」と云うのがそのCDで、3枚組全51曲で3000円。とてもお得だが、とてもディープな、そして最適なURCレコード入門になっている。

このアルバムを聞けば、いかにURCというのが、ユニークなレーベルだという事が良く判る。そりゃあもう50年も前の録音だから、古臭い音に感じるだろう。だがそこに込められた歌、情念に、時代を超えて輝くものを感じるだろう。自由に歌いたい、自由に音楽を創造したいという思いは、どんなに時間が経過しようがが古びることがないのだ。

別のコンピレーション、「URC RARE シングルズ」は、CD2枚組で35曲2200円なり。こちらは上記のものよりも、よりURCのどろどろした雰囲気を楽しめて楽しいと思う。マニア度がかなり高めだとオレは思う。初めてURCの音に触れるのなら、上記の3枚組が最適だよ。

URCレコード設立から50年経って、日本はより自由な社会になったかと言えば、残念ながらより不自由な社会になってしまった。言いたいことなんか言えない。言いたいことを言えば弾圧される。誰かの作った基準を外れようものなら、社会全体から糾弾される、非常に生きづらい社会になってしまった。自由は何処にあるんだ?

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自由とは不自由から生まれる

URCレコード読本を読むと、そこにはフォークや、ロックといった区別はなく、ただ自分の思うように自由に音楽を作りたいという情熱が混とんと沸騰しているさまが読み取れる。

この本の中にはずいぶんと当時の逸話が盛り込まれている。オレが大好きなジャックスは、直接はURCレコードの所属アーティストではない。だが高石友也事務所に所属していた事から、随所にその名前が出てくる(後期ジャックスのメンバーが休みの国をつくった事や、URC所属アーティストのアルバムに、楽器の演奏などの手助けをしている話等々)。

他にもはっぴいえんどが、岡林信康や遠藤賢司のバックバンドをしていたという話は面白かった。斉藤哲夫が、あがた森魚経由で、鈴木慶一を音楽業界にひっぱりこんだ話など、興味深い話はつきない(鈴木慶一は引きこもりがちで、あがた森魚がバイト先で出会った、鈴木慶一の母親から音楽仲間に加えてもらいたいと頼まれたそうだ)。そんな当時を生きていた者が見て感じた事柄がぎっしりと詰め込まれている。

URCレコードが出来たのは、自由に自分たちの音楽を発表したい場所がないからだった。言い換えるなら制約、制限、規制といった不自由があったからこそ、こうした自由な場が生まれるきっかけになったわけだ。

自由とは不自由があればこそ生まれる。何もかも好き放題に表現出来たとしたら、URCレコードなんか誕生しなかったろう。ロックはR&Bやブルースから生まれた。R&Bやブルースは、黒人が差別され抑圧されたからこそ生み出された音楽と言える。不自由こそ自由の母親なのだ。

いつの時代もそんな不自由が溢れているからこそ、自由を望んで、こうした表現が生まれるのかも知れない。

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「望み」のない2020年

だが自由を望まなければ、自由なんかやって来ないのだ。今の時代何が1番不幸かと言うと、そうした「何かを望むという気持ち」が何もない事なのかも知れない。望んだからこそ、何かが生まれるのだ。だが何も望んでいないんじゃ、何も生まれないじゃないか。

ただ毎日コンビニ弁当を食べて、仕事して、まがい物ビールを飲み、バラエティー番組に笑う日々。それが生きるって事なのか? オイ!

そんな事をこうしたURCレコードのアーティスト達の歌を聴いていてオレは感じた。今のこの国には、なんの望みがあるのだろう? と。望みがないというのが、この国に生きる者の一番の不幸なんだと思う。

そんな何も望まない人たちも、このURC所属のアーティストたちの歌に耳を傾けてもらいたいと思う。URCレコードの作品にには、そんな熱い魂からの「望み」が刻まれている。まずは「望み」を抱くことから始まるんだ。

URCレコードが誕生して50年。望みの無くなった現代に、再びURCレコードが輝き出したのには意味がある。何かを望むことはとても大事なことなんだよ。それが生きるってことなんだと思う。

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