Joy Divisionの唯一の公式ライブビデオ、Here the young men は何故DVD化しない

Joy Divisionコーナーで見つけた黒いビデオ

　これはオレが大学生の頃の事で、もう30年以上前の話。
　その頃、授業の帰りにディスクユニオンに立ち寄るのは日課だった。必ずチェックしているコーナーの一つがJoy Divisionだった。あるときそこに1本のライブビデオが鎮座していた。黒いパッケージにはファクトリーレーベルのロゴと商品番号、そしてJoy Division “Here the young men”とだけ書いてある。それを見たときに、オレの頭には墓石のイメージが浮かんだ。

　Here the young menというのはJoy Division唯一の公式なライブビデオだ。その当時5000円くらいしたと思う。大学生の頃はそういったビデオは高価だったので１本も買うことがなかった。そのくせソリッドレコードから出たジャックスのボックスセット「JACKS CD BOX」は16000円もして、貧乏大学生にはかなり高額なボックスセットだったが躊躇なく買っていた。なんだろう、自分のこの出費に対する感覚は？

　結局このビデオを見る事が出来たのは、就職してお金に余裕ができてからだった。たぶん1991年頃の事だと思う。この頃はビデオ・テープにLDと、ずいぶん映像ものを買っていた。今じゃVHSビデオもLDも、再生機器を処分したんでもう見る事は出来ない。LDの時代はとても短かったな。

　購入したHere the young menを期待に満ちて再生してみる。初めて見る、動くIan Curtisなのだ。再生してまず驚いた。何が驚いたって、画質と音質の悪さに驚いたんだよ。西新宿や、その頃よく通っていた高円寺の海賊盤専門店で売っているビデオとほぼ同等、いやそれ以下の品質だった。これがちゃんと所属レーベルからリリースされた公式作品なのか？　と疑ったぐらい。最初再生した時は、オレのビデオデッキの不調を疑った。ヘッドの清掃をしても、なにをしても画質は変わらず。別のライブビデオを再生すると、いつもの様に綺麗に再生する。ここまでして、ようやくオレも納得した。これはとても画質の悪いビデオなんだ、と。

　そんな画質の超悪いビデオであっても、これが唯一の動くJoy Divisionの姿が見られる映像だった。30年前は、もちろんYoutubeなんか陰も形も無い。webどころか、パソコン通信の時代だ。だから、こんな映像を見られるだけでも超貴重で興奮したよ。初めて見たIanの奇妙な踊りには驚いた。まるで痙攣するタコのような踊り。暗くぼやけたステージ上に、朦朧と朧げな青年が腕をクネクネと振り回しながら踊り、歌っている。何とも奇妙な儀式のようなステージだった。それがJoy Divisionだった。

Here the young menの内容について

このビデオは1982年に発表された。商品番号はFACT37。3つの会場で行われたライブからこのビデオが制作されていることを調べてみて初めて知った。全部同じ日だと思い込んでいたよ。ライブの日付は、1979年10月28日・29日、マンチェスターのアポロ。もうひとつは1980年1月18日のオランダのアイントフォーヘンのEffenaarというコンサートホール。

収録曲は、

1 Dead Souls　ーApollo theater 27 Oct,1979
2 Love Will Tear Us Apart　ーApollo theater 27 Oct,1979
3 Shadowplay　ーApollo theater 27 Oct,1979
4 Day of the Lords　ーApollo theater 28 Oct,1979
5 Digital　ーEffenaar theater 18 Jan,1980
6 Colony　ーEffenaar theater 18 Jan,1980
7 New Dawn Fades　ーEffenaar theater 18 Jan,1980
8 Auto-Suggestion　ーEffenaar theater 18 Jan,1980
9 Transmission　ーApollo theater 28 Oct,1979
10 Sound of Music　ーApollo theater 28 Oct,1979
11 She’s Lost Control　ーApollo theater 27 Oct,1979
12 Walked in Line　ーApollo theater 28 Oct,1979
13 I Remember Nothing　ーApollo theater 28 Oct,1979
14（ボーナストラック） Love Will Tear Us Apart 　PV

※ライブの日付は、Joy Division Concertの情報を参照

Here the young menは未だDVD化ならず

　結局のところ今でもJoy Division関連のライブ映像は、youtubeで丹念に探してもそれほど多く見つからない。もちろん正規の製品としてのライブ映像なんてものはDVD化されていない。殆ど彼らの映像なんてものは無いんだ。それは余りにも急激に成功し、そして消えて行ったバンドだからなのだろうか。

　それにしてもFactoryは何故このビデオのDVD盤を出さないのだろう。確かに映像はとても悪い。それでもオレは長らくDVD化を待ち望んでいる。たぶんファンの多くもそうなんだと思うのだが。DVD化されないのは、これはIanの呪いなのだろうか？

　30年以上前にビデオ・テープで販売されたきりのこのライブビデオ、実は現在全編をyoutubeで見る事が出来るのだ。もともと画質最悪のビデオなので、youtubeで見てもそんな事は気にもならない。これは間違いなく違法アップロードなのだが、ファクトリーは放置しているんだろうか？

　暗く朧な画面に、幽鬼のようなIanの姿が蠢いているI。これじゃまるで19世紀の交霊会でも観ているようだ。呼び寄せた死者の霊が、ステージの上でのたくり、歌っているようだ。いや、やはり、これは交霊会なんだ。このもやもやと霞のかかったような、薄暗い映像の中でだけ彼は今も存在している。Ianは止まった時の中に取り残され、永遠にタコ踊りをし続けるのだ。

Here the young men / Joy Division　（←youtubeへのリンク）

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