キンクス・アーリーイヤーズ Shingdigに残された初期のKinksの姿

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ビデオ作品「ザ・キンクス・アーリーイヤーズ」

 1992年に「ザ・キンクス・アーリーイヤーズ」の名前で発売されたビデオがあった。これはアメリカのABCテレビ製作の音楽番組Shindigに、The Kinksが出演した時の映像を1本にまとめた作品だった。

 当時のオレはレーザーディスク(←死語。以後LDと省略する)で、この作品を見つけて購入。この頃の映像作品はビデオテープとLDとで発売される事が多かった。何度繰返し見ても劣化が少ないようにLDを購入した。ビデオより多少高い値段設定だったと思う。

 このShindigという音楽番組はMTVの走りとも云われていた音楽バラエティーショーで、1964月9年から1966年の1月まで放映されていた。その短い放映期間の割にはかなりの数のバンドが出演していて、The Beatlesはもちろん、デビューしたばかりのThe WhoやらRolling Stones等々今では有名バンドが数々出演している。この番組でデビューして人気者になったバンド・歌手も多数いるという。詳細は下記のWikiに譲る。

https://en.wikipedia.org/wiki/Shindig!

極初期の動くThe Kinksが見られる貴重な映像

 さて我等がThe Kinksが、この番組に残した映像は10曲。メンバーの服装やPete Quaifeの髪形が随分違うなど(一時期変なパーマ頭をしていた)から、The Kinksは何度もこの番組に出演した事が伺い知れる。

 デビュー直後の極初期のThe Kinksの姿を見られる貴重なビデオではあるんだけども、残念ながら半分は口パク。そして当たり前の事ではあるけれど、画質、音質は良くないのは仕方ない。それでも50年以上前の彼らの生き生きとした、そうまだ10代のピッチピチの若さ溢れる姿が見られるのがとても嬉しい。見るだけで御利益が有りそうだ。

 ご存知の通りLDはもう過去の遺物で、我が家でもプレーヤーは処分してしまってもう見られない。去年の事だが、我が家に何枚も保管しているLDをDisc Unionに買い取ってもらおうと思い見積りを頼んだ。すると帰ってきた回答は、「買い取り対象外です。」と云われてしまった。まるで契約解除になっってしまった、プロフットボール選手にでもなったような気分だ。

 そんな訳で、オレはこのLDを今でも手元に置いている。でも見るのは随分前にDVDにダビングしたディスクで楽しんでいる。DVDやBDで再発されるのを長い間待ち望んでいるのだが、未だ実現していない。きっと版権の関係か何かで、もう日の目を見ないのでは無いかと思う。
 そのくせYou Tubeではこれらの映像を見る事が出来るのも不思議な話だ。

収録曲はこの10曲
1 All day and all of the night
2 Tired of waiting for you
3 Set me free
4 See my friends
5 You really got me
6 I’m a lover not a fighter
7 Who’ll be the next line
8 It’s all right
9 I got a move
10 Long tall Shorty

1曲目はAll day and all of the night
 これは嬉しい生演奏。この頃のThe Kinksはまだまだ演奏が不安定で、Daveのギターがライブだと多少たどたどしいのが逆に良い。ギターソロになると、嬉々とした顔で中央にしゃしゃり出て来るDaveが可愛い。その当時彼はまだ17〜18歳の少年だった。

 この頃のDaveはたいがいガニ股でギターを構えている。これはJohn Lennonの影響なのか? なんて思っても見たけれども、いやThe Kinksだけにそれは考えずらい。Ray Daviesの著書「X Ray」に描かれている、The Beatlesとの確執を考えると、真似をするわけが無いわな。きっと当時のギタリストは、ガニ股でギターを弾くのがカッコいい事になっていたんだと思う。

 更に面白いのは、ギターソロになるとDaveは腰を一段と落として、銃を構えたベトコンが索敵するかのように、もしくはウンコを我慢して歩いている人みたいな、奇妙なステップでギターソロを弾きまくるのがとてもおかしい。

2 Tired of waiting for you
All day〜は実際に演奏しているのに、何故か口パクが多いのもこのShingDig。放送の都合も有るのだろうか? 2曲目のTired of は口パクのパフォーマンス。ここでDaveが弾いているギターはフライングV。ところがVの又のところに腕を入れて、ギターを真横に構えて弾いているのが何ともカッコ悪い。しかもこの当時はギターは胸の位置で弾くのが主流だったので、まるでバタヤンのようではないか!

 そして次に気になるのがベースのPete Quaife。弾いている真似なんで、カッコつけに徹しているんだろう。弦をはじく度に大げさに腕を振り回す。そう、The WhoのPete Townshendのウィンドミル奏法のようだ。多分この映像は1965年ごろの事で、Townshendよりも前にウィンドミル奏法をやったのは、The KinksのPeteなのでは無いか? Townshendのウィンドミル奏法は、Keith Richardsが腕を振り上げてギターを弾くのを見て、あの奏法の着想を得たと語っているので、何も関係は無いんだが。

3 Set me free 

残念ながらこれは口パク。DaveはフライングVでバタヤン奏法をしている。そしてPeteは何故かギターを直立させてつま弾いている。どうせ口パクだからと開き直ったか、その為にドラムセットを組むのが面倒だったのか、Mickはタンバリンをやる氣なさそうに叩いている。

4 See my friends

 Rayは12弦ギターを弾きながら歌っている。これは生演奏。元の歌ではシタールが効果的に使われているんだけども、それを12弦ギターで表現しようとしている。

 The Kinksで一番絵になる男Peteがベースを弾く手元がアップになる。彼の左手の薬指にキラリと光る銀色の結婚指輪がはっきりと映る。イギリスのロックスターは何故か結婚が早いね。Rayも20歳でRasaと結婚をしている。John Lonnonの結婚も早かった。Ian Curtisは19歳で結婚した。労働者階級は結婚が早いのだろうかね ←皆その後結婚生活が破綻している (Peteは情報なし)

5 You really got me

 大ヒット曲はもちろんちゃんと生演奏している。やはり演奏に安定感がないのだが、逆にその粗っぽさが、オレはかっこいいと思う。そして云うまでも無く、ギターソロになるとDave様が腰を低く落として前にしゃしゃり出てくる。満面の笑顔を顔にたたえて。腰を低く落として、奇妙なステップで歩きながらギターを弾くその彼の姿は、阿波踊りにも見える。The Kinks連だ。

6 I’m a lover not a fighter

 これはでしゃばり男Daveのソロ。もうRayより前に出るのが嬉しくて仕方ないのがありありと判る。ギターはフライングVのバタヤン奏法。途中でフェイドアウトするのがとても惜しい。

7 Who’ll be the next line

 これは口パク。口パクなのにRayはわざわざキーボードを弾いている。

8 It’s all right

 これ又口パク。Daveはまたもやバタヤン奏法。Rayのブルーズ・ハープを吹く姿が珍しい。そしてPeteはRickenbackerのベースを弾いている。彼は真性のモッズだったと伝え聞くのだが、Rickenbackerがとてもしっくり来るとオレは思う。彼こそMr Rickenbackerだ。見よこの雄姿を!

9 I got a move

 口パクに見えるのだが、実際に演奏しているようにも見える。歌っていて声が一寸変になるシーンがあって、その時Rayは少しはにかむような表情を魅せる。だけどもレコードそのままの演奏にも聞こえて、ちょっとオレには判別出来ない。

それはともかく、ここで聞けるThe Kinksは、R&Bをそのまま演奏しただけだというのに、でき上がったものはR&Bとは何か別のものになってしまった、そうこれぞRock Musicなのだ! という姿を伺い知る事が出来る。なんなんだろう、この異様なエネルギー、熱気は! 

10 Long tall Shorty

 最後はフライングVを抱いた渡り鳥Daveがスポットライトの中に1人だけ浮かんで登場。Long tall Shortyをソロで歌う。正直Rayはあまり人前に立ちたくないのにフロントマンになってしまった感がこの頃は強い。それに対してDaveは人前に出たくて出たくてしょうがないのが明らか。嬉々としてスポットライトを浴びている。ライトが会場全体を照すと、その日の出演者一同が後ろ集まっていて、Daveにあわせて歌うは、ドラムは叩くは、ホーンセクションまで付いて大盛り上がり大会セッションでこの番組を閉める。ドラムはなんと5組用意されている。1人女性がドラムセットに座って、ほぼ叩き真似をしているのが大きく映る。これは誰なんだろう? ビデオ最後のテロップにMarianne Faithfullの名前が出てくるのだが、違う人に見える。

このビデオの見どころ オレの視

 この頃のRay様は、歌っている姿を見る度にぷっと噴き出したくなる。というのも、彼の前歯2本の間にすき間が空いているのだ。口を開く度にどうしても気になって見てしまう。この当時マネージャーがRay様の見た目を気にして、空けた前歯の上に義歯をかぶせて隠そうとしたなんて話を聞いた事がある。そうすると鼻の下部分が膨れて、不自然なアホ面になってしまうんだとか。

 今じゃその慣れ親しんだすき間も、氣が付けばふさがっている。修正したのか、入れ歯なのか、何時治したんだろうか? これまでに読んできたインタビューには、それについての言及がないので謎だ。誰か知っている人がいたらコメントをつけて欲しい。

 あと注目してもらいたいのがベースのPete。彼の安定してドライブ感溢れるベースが、この時期のThe Kinksの勢いをより盛り上げているとオレは思っている。1996年にインタビューで、The WhoのベーシストJohn Entwistleはこう答えた。

Q「好きなベーシストは誰ですか?」
John「Pete Quaifeと言わざるを得ない、何故なら彼が文字通りキンクスを駆動させ続けていたんだ」

 このビデオで見られるThe Kinksの姿は、なかなか荒々しい演奏をしていて、初期の彼らの勢いと云うものを感じる事が出来る。荒々しい演奏といえば、The WhoやRolling Stonesを思い浮かべる人も多いだろうけど、実はThe Kinksも決して彼らに劣らない、かなり粗っぽい演奏をしていたのだ。

 それはThe Kinksの1stアルバムを聴けばよく判るってもんだ。この頃のThe Kinksに比べたら、The Beatlesなんて、とても大人しい、可愛らしい田舎のお坊ちゃまバンドに聞こえてしまう。それくらい野性味溢れる演奏をしている。これがロンドンの労働者階級の勢いなのだ。

今じゃ貴重なこの映像、中古のVHSしか手に入りません。


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