ボックスセットはロック年金制度 1ミュージシャンの老後は大勢のファンが支える
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ミュージシャンにも老後がやって来る
以前テレビ朝日で「やすらぎの郷」という連続ドラマをやっていた。かつてTV業界に貢献した俳優や関係者だけしか入れない秘密の老人ホームの出来事を描いたドラマだ。俳優は人気があるうちに稼いで貯めておかないと、悲惨な老後を迎える可能性が高いね。山城新伍の最後なんか哀れだったよな。あれは自業自得か。
これはロックミュージシャンだって同じ事だ。ヒット曲に恵まれれば、印税で老後に何もしなくても贅沢な生活ができるミュージシャンが居る。Sir Ray Davies様なんか、10年に1〜2枚アルバムを出す程度の活動だけれども、毎年入ってくる印税は軽く10億は超えると聞いた。それだけ国に貢献すれば、女王陛下からSirの称号を賜る訳だ。
一方、ごく数年の注目を浴びた青春の日々を宝物に、悲惨な老後を過ごしているミュージシャンだって沢山いるんじゃないかな。。誰かに雇われたり、商売を始めたりして何とか生き延びている人もいるんだろう。でもそんな器用な人はごく少数なんじゃないか。
かって、若者の文化と思われていたロックは、どんどん老齢期を迎えている。毎年老齢のミュージシャンの訃報を聞き、自分の青春時代を思い出して涙しているよ。
今や演奏するのが老人、聴いているのも中年から老人。オレがロックなんか聴き始めた頃はまだまだピチピチの若さを誇っていたのに、今じゃロックそのものが「やすらぎの郷」入苑目前だ。
新譜が出せないミュージシャンのボックスセット商法
Robert Fripp師匠が過去のライブ音源を次々とリリースし出したのは20年位前だったろうか? The Collector’s King Crimsonと云う名前で2〜3枚組のアルバムが次々と発売されていた。
いやその前からThe Great DecieverとかEpitaphとかライブのBOXセットを出していた。ファンなら買わずにはおけない貴重音源のお蔵出し。売れるもんだから、味をしめちゃってCollector’sシリーズを作ったんじゃないかとオレは邪推してしまう。数組で終ると思っていたら、まさか延々と続くとは思っていなかったよ。だからいい加減付いて行けなくなって、今は買わなくなってしまった。
ここ数年、そんなファンの移り気をFripp師匠は察知したんだろう。どうせならバラ売りしないで、どーんとCD20数枚組のBoxセットなんていう商法に切り替えてしまった。
その第一段が2013年の「The road to Red」。この目論見はあたったんだろうね、2014年の「Starless」が出たり、デビュー40周年記念Boxセットで「in the court of Crimson King」や「Lark’s tongues in aspic」なんて商品まで出てきたぞ。どれもこれも1.5万円〜2万円もする商品ばかり。こう頻繁に高額商品を出されては、購入は追いつきません。
こうなるとオレが金を出せるのは「The road to Red」のみ。それ以上は、自分の精神力を鍛えるために、もう買いません。まさにこれぞDisciplinだ。脂汗を眺めながら、そんなボックスセットの概要を眺めている。
ロック年金制度創設
何故Fripp師匠はこうも次々とファンが買わざるを得ないと思ってしまう商品を出し続けるのだろうか? そりゃあ、King Crimsonは即興演奏を売りにするバンドだから、どのライブも聴いて見たいとは思うよ。でも、ここまでして次々と出す理由は何だろう? Fripp師匠はカネの亡者になってしまって、世界中のファンから金を巻き上げてウハウハ生活を満喫してるのか?
これまで買い集めてきたBoxセットを並べて考え込んでいると、ふとある考えが頭に浮かんできた。これは、ロック年金制度じゃないかと。そりゃあバンドの主要メンバーであるFripp師匠は未だ現役で、世界中をライブで回っている。何処でも熱狂的な観客に迎えられてお金には困らないだろう。
だけども、過去のKing Crimsonに在籍したメンバーたちの今どうしているんだろう? 例えばDavid Crossなんて、細々と音楽活動をしているけれども、とてもまともに食っていけるとは思えない。食う為に近所の奥さん相手にピアノのレッスンなんか付けて、日々の糧を得ていると聞いても驚かない。
Bill Brufordも、とっくに引退してしまった。Giles兄弟だって、今はいったい何をやって暮らしているんだか。
そう、King Crimsonと云うバンドを一身に背負ってきたFripp師匠は、かつて在籍したメンバー達の老後の面倒を見ているんだよきっと。過去に共に素晴らしい演奏をしてくれた旧メンバー達。彼らが路頭に迷わないように、印税と云う収入が行き渡るよう、過去の音源を掘り起こして次々とリリースしているんじゃない。
それはファンも喜ぶし、Crimsonに在籍したメンバーも売れれば売れるだけ印税が入り飢え死にする事が無い。ウィンウィンの関係成立。相棒の延々と続く再放送のようだ。
こういったBoxセット商売は、ロックミュージシャンだからこそできる、老後の生活を支える「年金制度」だ。若い頃に生み出したものは老後の貴重な財産なんだ。
他の国の年金制度はどうなっているか知らないけれど、日本ほど酷くはないだろう。だけどもとっても充実しているなんてことはないだろう。若かりし時に一生懸命演奏した事が、今になってお金となって帰ってくる「ロック年金制度」。
Sirなんて賜わって国から熱い年金を貰えるなんて、ごく一部のミュージシャンだけ(っていうか、そんな年金はいらないか、彼らには)。国なんかあてにならないから、自分で作ってしまった年金制度。まさにD.I.Y。これぞパンクの精神だ。世界中のファンから少しづつのお金を集めて、老いたミュージシャンの生活を支える仕組み。
そう考えるとボックスセットの意味が大きく変わってくる。Fripp師匠は一言もそんな事を云ってはいないけれども、秘かにそんな事をもくろんで次々と過去の音源を引っ張り出してきているような気がしてならない。
オレは今後この手のBoxセットは「ロック年金ボックス」と呼ぶ事にする。老後の生活に不労所得は大事だ。
ロックミュージシャンばかりじゃない、一般のサラリーマンも、万が一(突然の失業、病気怪我のリスクは日々つきまとう)を考えて、黙っていても一定のお金が入ってくる仕組みを作る必要があるよ。黙っていてもお金が入ってくるものが資産というものだ。だから車や家は資産じゃない。車や家はお金を生み出さない。
ここまで読んで頂きありがとうございました。SNS等でシェアしていただけるととても嬉しいです。 東倉カララ