OMDの1stアルバムの日本語タイトルはエレクトロニック・ファンタジー Orchestral Manoeuvres In The Dark

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オーケストラルマヌヴァーズインザダークとの出合い

Orchestral Manoeuvres In The Dark(長いので以下OMDと略す。オレが子供の頃はOMIDだったが)という、リバプール出身のバンドがある。古い言葉で言えばイギリスのテクノポップ(ひょっとして死語?)のバンドだ。気がつけばメンバーもおじいさんになってしまった。

このバンドの音を初めて聞いたのは1980年、オレがまだ中学1年生の時だった。たまたまNHK-FMの地元局の番組で、このバンドの曲が紹介された。それが彼らとの出逢いだった。

そのころの同級生の多くはYMOに夢中だった。ひねくれ者のオレは、流行りもののYMOじゃないテクノポップを見つけて独りほくそ笑んでいたのだ。それにYMOの響きは、オレにはアジアっぽ過ぎたのだ。だがOMDは間違いなくイギリスの音だった。小学生の頃から洋楽ベスト10を聞いていた子供の耳には、OMDの方が洗練されカッコいい音として響いた。

アルバムOrchestral Manoeuvres In The Dark

Orchestral Manoeuvres In The Dark 1stアルバム

その時ラジオで流れた曲は彼らの代表曲の1つElectricityだった。中1のオレはこの曲にすっかりかぶれてしまい、鞄やらシャツやらなんにでもマジックでElectricityと書いていた。それがカッコいい事と思っていたのだ。ああ恥ずかしい子供時代。当時のオレは、それが未来を先取りしているつもりだったのだ。

数日後地元のレコード屋に立ち寄る。すると彼らの1stアルバムが店頭に飾られているじゃありませんか。デビューしたばかりの、こんな無名のバンドのアルバムが、日本の辺境の町のレコード屋で当たり前のように売っている! 当時はとくに変と思ってはいなかったけれど、今になって考えてみれば、斜里町の尾張屋さんというレコード屋の品揃えには改めて驚くのだ。

さてそのOMDの1stアルバム、原題はOrchestral Manoeuvres In The Darkだ。ところが何故か日本では「エレクトロニック・ファンタジー」という、なんとも恥ずかしい邦題がつけられていた。パンクロックの旋風が収まり、その次の時代を作ろうと、時代の最先端を目ざして創り上げたアルバムにファンとジーとは。なんとも御花畑なタイトルを付けられてしまったものだ。イチゴ畑を歌ったわけじゃないんだからさ、ファンタジーはないだろうよ。

収録曲は全部で10曲
A面
1 Bunker Soldiers 2:51
2 Almost 3:40
3 Mystereality 2:42
4 Electricity 3:32
5 The Messerschmitt Twins  5:38

B面
6 Messages 4:06
7 Julia’s Song McCluskey, Humphreys, Julia Kneale 4:40
8 Red Frame/White Light 3:10
9 Dancing (Instrumental) 3:00
10. Pretending To See The Future 3:48

今の耳で聞くと安っぽいリズムボックスの音が、いかにも当時の音で、それが逆に新鮮に聞こえる。リアルなサンプリングの音が良いわけじゃないのだ。このチープさこそ未来の音。そしてシンセサイザーも短音で、コード演奏なんかできない。そして音の分厚さにしびれちゃうね。これぞアナログシンセの音。今の楽器じゃ絶対に出せない、味わいのある時代の音です。

このアルバムの中で1曲だけ異質に思えるのは4曲目Mysterality。この曲にはサックス演奏が入っている。子供の頃には気にもならなかったが、今のオレにはこれがどうも気になってしかたがない。

Ultravox!が1977年に発表したアルバムHa! Ha! Ha!にはHiroshima Mon Amourという曲が収録されている。リズムボックスの音から始まるこの曲は、印象的なサックスがメロディーを吹いている。Ultravoxはこのアルバムからエレクトロニクスの導入を図るんだけども、電子音とサックスの絡みがとても面白い音に聞こえるのだ。OMDもその事をこの曲でオマージュしているように思えて仕方がないのだ。

残念ながらSpotifyにはこのアルバムの登録はないのが残念だ。その代わり誰かがyoutubeでこのアルバム収録曲でリストを作った人がいる。そちらで視聴してほしい。

まさに時代の音だ。パンクが終りテクノポップのバンドがいくつも生まれ、そして1980年代半ばには、こういった音が隆盛を極める。ここにはエレクトロ・ポップの黎明期の音が収まっている。

Youtubeへのリンク:Orchestral Manoeuvres In The Dark

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このアルバムの基礎データ

Orchestral Manoeuvres In The Dark 1stアルバム

イギリスでのリリースは1980年2月22日。プロデューサーはバンド自身とチェスター・ヴァレンチノ。録音はリバプールの自身のスタジオで行われた。OMDがレコード会社と契約した際に、巨額の契約金をもらったのだが、その全てを使って自前のスタジオを作った(ロンドンの一流スタジオをまる1カ月借りられるほどの金額だったという)という。録音は1978年から1979年にかけて行われた。

イギリスのアルバムチャートでは最高位27位。シングルチャートではMessagesが13位を記録している。

凝ったアルバムのジャケットだから手元に置いておきたかった これはアート

このアルバムは今でも手元に残している。10年近く前にオレは浅はかにもアナログレコードの大処分を行った。その歳に売る気にならなかったレコードの1枚がこのアルバムだった。

一見すると、青い背景にに、オレンジ色の斜めの楕円模様が規則的に描かれているだけのジャケットに見える。だがこの模様は絵ではなく、青一色の紙に規則的にあけられた穴なのだ。オレンジ色の模様は内ジャケットの色なのだ。なので内ジャケットを引き出すと、単なる穴の開いた青いボール紙になってしまう。

このあたりの仕掛けが面白くて、手元に取って置こうと思った。売れるとも何とも判らない新人バンドのデビューアルバムなのに、なぜこうも金のかかる凝ったアルバムジャケットにしてしまったのだろう? まあ、その為にこのレコードは売れても、バンドの儲けはほんのちょっぴりだったようだ。

このアルバムジャケットのデザインは、Peter Savilleが担当した。イギリスを代表するポップデザイナーの1人で、オレにとってはJoy Divisionの一連の作品アルバムジャケットをデザインした人として記憶している。

OMDはインディー時代にFactoryレーベルからレコードを出しているので、そのつながりなんだろうと思う。

Andy McCluskeyはその当時を振り返って「このアルバムを買った人の半分は、このジャケットのデザインが気に入って買ったんだと思う」と語っているのが面白い。おれもこのジャケットが気に入って、売るのをやめた。

これぞリバプールサウンド

Orchestral Manoeuvres In The Dark 1stアルバム

当時は未来の音楽だと思って聞いていたこのアルバム。今改めて聞いてみると、とてものんびりとしている事に驚く。未来的どころかとても牧歌的な響きだ。確かにシンセサイザーを使ってはいるのだが、ちっとも機械臭くないのだ。

聞いているとなんだか田舎の港風景や、そんな港湾を見下ろす丘にでもいるような気分になる。やはり彼ら2人がリバプールという、イギリスの田舎町の青年だった事が、音に影響を与えているんじゃないだろうか。

The KinksとThe Beatlesのほぼ同じ時期に発表されたアルバムを聞き比べてみると、The Beatlesはすごく田舎っぺの音に聞こえるのだ。それに対してThe Kinksは都会的で、とてもシャープなビートバンドに聞こえるのだ。やはり何処に住んでいるかによって、音は変わると思う。

この田舎臭さがリバプールサウンドの良いところだとオレは思う。どこの町も同じ音じゃツマラナイじゃないか。

テクノポップはパンクムーブメントが生んだ

Orchestral Manoeuvres In The Dark 1stアルバム
内ジャケットは黒に縁取られたオレンジ色

この当時のテクノポップの何が面白いのか? それは、ろくに楽器も弾けないあんちゃん達が、エレクトロニクスの力を借りて自分を表現したところにあると思う。

ギターにしろドラムにしろ、素人がすぐにマスター出来るものではない。まして思うように弾くなんて、物凄く時間のかかることだ。オレも下手くそギター弾きなので、そのことは良くわかる。

いくら良いセンスやアイディア、情熱があったとしても、演奏技術がなければそれを表現出来ない。そういう障害をエレクトロニクス機器が取っ払ってくれたのだ。

このアルバムのライナーノーツに鈴木慶一氏が「苦節10年のギタリストや、高校球児並の練習量のドラマーとは違って、機械の操作さえ覚えれば、すぐに出来る。このインスタントさが面白さでもあるし、危険な点でもある」と述べている。ろくに楽器も弾けないあんちゃん達がバンドを組み、数年後にはこのアルバムをリリースしているのだ。

これって何かににている。そうこの手軽さこそパンク・ロックの理想だって思うのだよ。

音的には正反対に聞こえるパンク・ロックだが、こうして考えてみるとテクノポップとは、パンクロックの理想が進化した正当な後継者だという事が判る。スリーコードが弾ければ誰でもロックバンドをやれるなんていうが、それでもギターを弾く、ドラムを叩くのにはそれなりの練習と技量がいる。

その障害を取っ払ってしまったのが、シンセサイザーや、リズムボックスの電子機器だ。ギターから、より敷居の低いシンセサイザーに楽器を置き換えたのが、テクノポップというわけだ。パンク・ロックの手法の更なる進化とオレは思っている。

いみじくもJohn Foxxは彼のアルバムのライナーノーツで、自身のことをElectro Syd Lonnonと呼んでいた。まさにこの言葉こそ、テクノポップに相応しい称号だとオレは思っている。

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参考:

ウィキペディアのOrchestral Manoeuvres in the Dark (album)の項
Orchestral Manoeuvres in the Dark (album)のライナーノーツ


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