ドアーズ・アー・オープン 動と静を行き交うドアーズ 1968年の映像作品 The Doors are open

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Jimが生前中に制作された唯一のライブフィルム

 The Doorsのライブビデオに「The Doors are open」と云う作品がある。イギリスのグラナダTVが制作した映画で、1968年にTVで放送された55分のドキュメンタリー映画だ。Jim Morrisonが存命中に制作された唯一の映像作品。このライブはロンドンのラウンドハウスで収録された。1968年の9月6日の事だ。

 我が家にあるDVDは2000年ぐらいに発売されたものなんだが、この作品はレーザーディスク(以下LD)でも持っていて、よく見ていた作品だった(1990年前半の話)。LDのジャケットは、思わずジャケ買いをしてしまうほどの、カッコよさだったのた。アートとして部屋に飾っておきたい、ほれぼれする良い出来のものだった。真っ黒を背景にマイクを掴んだjimが浮かび上がるだけのジャケット。是非検索して見て欲しい。

 それに対して、DVDのジャケットはお世辞にもすてきな物とは言えない代物だ。アイキャッチの画像がそのDVD。是非とも昔のジャケットに戻してもらいたいものだ。このジャケットじゃ、この作品を見て見ようだなんて氣が起きないじゃないか。

 レーザーディスクや、このDVDを買った当初持っていたTVは21インチだったんで、映像の悪さが気にならなかった。が、今や大画面が当たり前になってしまった。我が家ですら32インチのTVを使っている。そうすると、この作品の画質の悪さが際立ってくるんだな。まあ、白黒映画と、The Doorsと云う素材を考えれば、これも演出と思えば我慢が出来る。さらに悪い事に、音質も最低。Hi-Fiにはほど遠い、こもって、歪んだ音質。DVD化にあたって、そのあたりの高音質化処理されていれば良かったのにと思う。

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動と静、陰と陽、The Doorsは陰極から陽極へと大きく振れる

 音も悪い、画質も悪いこのドキュメンタリー・ライブ、じゃあ内容も悪いのかと云えば、それが正反対で、緊張感に満ちた非常に良い、まさに氣が充実しまくっているThe Doorsの姿を捕えている。ステージに目をつぶり微動だにせず歌を歌うjim。

 それに対して、激しい演奏を繰り広げるドラム、ギター、キーボードの3人。見えないリズムに息がぴったりと合い、渾沌と整合性を行き来する演奏がスリリングだ。そして、Jimがシャウトし飛び跳ねる。まさにステージ上で氣が爆発したかのような、ドラマチックなステージをカメラは捕える。

 このドキュメンタリーは、The Doorsのライブをそのまま捕えているのではなく、社会現象、60年代の末に存在しているThe Doorsと云う存在がどういう物かと言うことにも視点が据え付けられている。だから、曲の合間に、曲をずた切りにして、当時のアメリカ社会の混乱の映像が唐突に挿入される。民主党の大統領指名大会に押し寄せる暴徒、そしてそれを押さえつけるべく動員されたマシンガンを持った州兵達。
 そういう意味では、彼らのライブそのものをじっくり楽しむと云う意味では、このライブビデオは不適当なものだ。だが、The Doorsと云う存在そのものが、音楽業界にとっては騒乱そのもので、ヒリヒリする社会の緊張と、バンドの演奏の緊張は何かに通ったものを持っている。当時の生々しい息遣いを捕えていると云う意味では、貴重なドキュメンタリーとも言える。

 数台のカメラで捕えられたThe Doorsの演奏シーンは、各々のメンバーのステージ上での動きがよく見える。ピックを使わないギターのRobby Kragerの演奏は独特で、Ray Manzarekの演奏するオルガンの安定したベースの上で、自由奔放に弾いているようにさえ見える。

 ドラムのJohn Densmoreは、もうドラムを叩くと云うよりも、彼のドラムはまさにパーカッション担当という趣だ。彼のドラムは単にビート、リズムキープだけをするドラマーではなく、曲に緩急、メリハリ、強調、緊張、アクセントをつける為に叩いている。

 そしてキーボードのRay Manzarekは、神経質なオルガンを弾きつつ、その左手は常にベース音を弾き続けている。渾沌としたステージ上に唯一の秩序をもたらしているのはオルガンの彼だ。

 映画の冒頭で、The Doorsの面々がインタビューに答える。職業はといわれ、Robbyはギター、Johnはパーカッション、Rayはオルガニストと答える。そしてJimは、答えに窮して何も言わない。そうJimにとってThe Doorsとは職業じゃないんだ。だから答えようがないのだ。言うなれば、Jimにとってこのステージ上で行っている事は、ただ自分がしたいと云う衝動を表現しているだけの事。詩にメロディーをつけて歌いたいから歌っているからで、ボーカルを担当していると云うわけではないのだ。あえて云うなら、The Doorsを体現してる、それがJim。だから彼は「職業は?」と聞かれても、答えようがないのだ。彼こそThe Doors。

このドキュメンタリーに収録されている曲は、
introduction
When the music over
Five to one
Spanish caravan
Hello I love you
Back door man
The celebration of the lizard
Light my fire
Unknown solder
の以上9曲

The Doorsという最高のRock’n’Rollバンドの姿をとらえたこの作品

 このドキュメンタリーを久々に見直して見て驚いた事がひとつある。シンプルな白黒の画面に淡々と進行するステージ。Jimは何時も激しくステージ上でアクションをしていると思い込んでいたのだが、実際はマイクスタンドをしっかりと握り、右足をスタンドよりもちょっと前に、そして目は閉じたまま、まるで彫像のようにステージ中央に立っている。

 それに対して、楽器演奏するメンバーの動きの激しい事。特にドラムのJohnとオルガンのRobby。二人はシンクロして、エンディングなどでは激しいアタック音を音楽に付け加えている。振り下ろされるドラムのスティックとオルガンの鍵盤を打つ手が完全に一致して、The Doorsのビートを刻んでいる。

 見どころは、彫像のように動かないJimが、中盤のBack Door Manからは、突如激しく動き出すのだ。その動と静の対比が、ステージのメリハリをつけて、後半に向けて寄りクライマックスを高めている。The Doorsはロックンロールバンドなんだ。サイケなんかじゃないことが良くわかる。

 このライブフィルムは、曲が細切れになってはいるものの、The Doorsの正に臨界点をカメラが捕えた、傑作ライブビデオと言えると思う。ただし、初心者にはこの作品は勧めない。初心者は、Live at the hollywood bowlなどで十分訓練をした上でないと、この作品の良さは解らないと思う。

 Doors are open。そうドアは開かれている。だが十分に覚醒した者でないと、立ち入ってはいけない。何故なら、ドアの向こうにあるものは、覚者にしか見てはいけないのだ。ドアの向こうから何かを得る為には、何かを犠牲にしなければならないのだ。あなたにはその準備が出来ているのか? Doors are open…..

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