フィリップKディックのユービック 現実とは醒めていない夢なのか? 今は2018年なのか、それとも1969年か?
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夢から覚めたらそれも夢で、はたまた夢だと思っていたらそれは現実で、どっちが現実でどっちが夢なんだ? Philip K Dickのユービック的世界に生きるオレ
オレは以前見た夢の、続きの夢をよく見る。しかもしょっちゅう。夢から覚めたら、「ああ、これはこないだ見た夢の続きかぁ」と云うことが頻繁にあって、それがもう何十年も続いている。「相棒」よりも長い、オレの夢の連続ドラマ。夢の中の知床の街は現実と似ていて、それでいて何か何処かが違っている。
その夢の中の知床の街は、街の中心にショッピングモールが有って、その中には実際の斜里町にはないいろいろなおしゃれなお店、エスニック料理店やパブ、ファミリー・レストランが入っている。現実にはそんな施設はもちろんあるわけがない。
さらにオレの家から歩いて3分ほどのところに、ちょっと前までは個人商店が有った。夢の世界のその場所にはいろんな店が10軒ほど連なる小商店街になっている。同じような小商店街が他にもあって、西の海岸沿いには海の家みたいな商店が軒を連ねている。もちろんそんなものは何一つ現実の街にはない。夢の中の知床の街は、実際より遥かに栄えていて、街が賑わっているのが面白い。
また、時には寝ている夢を見て、その寝ている夢の中で夢を見るという、入れ子構造のややこしい夢だったりする。夢から覚めたら、「ああなんだ、これは夢だったのか。」と云う夢を見て、本当に目が覚めたらやっぱり「ああ、なんだこれは夢だったのか」という、変な夢。いったい何度夢から覚めたら、本当に覚めるのだろう? いや、この現実だと思っている世界も、まだ覚めていない夢なのかも知れない。ああ、なんてややこしいんだ。
いったい現実って何なんだろう? オレが今見ているのは脳が作り出した夢なのか? 現実なのか? そんな自分が現実だと思っている世界が揺れ動き、五感が感じている現実に疑問を持つ世界を描かせたら、Philip K Dickの右に出るものはいないと思う。
Philの描く作品の根底にはこの、現実に対する不信感がとても色濃く描かれている。その崩れて行く現実をより良く描くために、SFという設定を利用していると言っても良いように思う。今、自分が目の当たりにしているものは本当じゃないという恐ろしさ。それがPhilip K Dickの作品世界なんだ。
Philの代表作の1つ、ユービック 現実が崩壊する
Philのファンに好きな作品を投票してもらえば、間違いなくベスト3に入るのが「ユービック」だろう。これは1969年の作品で、この作品は典型的な現実崩壊の物語。読者がPhilip K Dickの悪夢世界を堪能できる事は間違いない作品。
ごらんの通り、今書架に並んでいるのは装丁が新しくなりました。
作品の舞台は、今となっては過去になってしまった20世紀の後半。子供の時に読んだSF作品が描いていた「未来」に、今自分が生きているという事がとても面白く感じる。
「ユービック」の世界では、超能力者を産業スパイとしてビジネスを行う側と、その超能力を無効にするする超能力を持った不活性者の組織が抗争している。その不活性者達を組織した会社のひとつランシター社は、仕事の依頼に応じて不活性者集団を引き連れて月の基地に向かう。
しかし、実はそれこそが超能力会社側のワナで、月基地で爆弾が爆発。社長のランシターが重傷を負う。ユービックの世界では人は直ぐに死ぬのではなく、冷凍保存されて、その遺体の持つ生体エネルギーが尽きるまで「半生者」として生きる事ができる。
ランシター社の技師ジョーは、ランシターが完全に死なないように冷凍保存しようとするのだが失敗。その直後から、爆弾の破裂から生き残った者たちに次々と奇妙な現象が起こりだす。あらゆる身の回りの物が古びてダメになったり、最新の車がオールドカーになるなどの時間退行現象に見舞われる。
そして死んだはずのランシターからのメッセージが、TV番組内や手元のメモに現われては、ジョーたちに何かを伝えようとする。時間退行どころか、次々と干からびて死んで行く仲間たち。
そして、ランシターから驚愕のメッセージが伝えられる、死んだのはランシターではなくジョーたちだと。半生者として冷凍保存されているのはランシターじゃなく、ジョー達なのか? どっちが本当の現実なんだ? と読者は鳴門の渦よりも激しい混乱の渦に投げ込まれる。
まあ、そんな感じで話が展開して行き、最後の最後でさらに話がひっくり返るというか、いったい現実はどっちなんだと読者を煙に巻くオチが付いてこの話は終る。真剣に読めば読むほど訳が分からなくなること請け合いの、ディープなPhilの世界がこの「ユービック」という小説なんだ。
アンドロ羊の次に読むならユービック
もし「アンドロイドは電気羊の夢を見るのか?」でPhilip K Dickの世界に触れたのなら、その次に読むなら是非この「ユービック」をお薦めする。「アンドロ羊」では、自分がサンフランシスコ警察の警官なのにも関わらず主人公の知らないもう一つのサンフランシスコ警察に捕まるくだりで多くの人は戸惑うと思う。
イギリスのSF作家Natasha Pulleyも我が家でこの小説を読んで、「何で主人公の知らない別の警察組織が出てくるの?」ととても混乱していたのがおかしかった。「ユービック」はさらにその戸惑いがてんこ盛りのPhilip K Dickワールド。これがPhilip K Dickの小説の神髄です。何が現実なんだ? オレはいったい誰なんだ?
オレの見ているのは現実なのか? 夢なのか? それとも夢を見ている夢なのか? それとも夢を見ている夢を見ている夢なのか? それとも、そもそも現実なんてものがあるのか? 全ては脳が創り上げた虚構なのか? じゃあオレはいったい何処に居るんだ?
しっかりとしているように思える現実なんて、実はとっても脆いものなのかも知れない。それをひたすら追求したのがPhilip K Dickと云う作家。没後35年以上経つという2018年に、未だ新刊が発売されている希有な作家。いったい今は本当は西暦何年なんだ?
↓これはユービックを映画の脚本用にフィル自らが書き直したもの。原作とオチが違いそれはそれで面白い。今は中古しか買えないようだ。
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