The Kinksのファーストアルバムは、やはりキンクスそのものの音だった

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The Kinks

 今日は2019年6月21日。Sir Raymond Douglas Daviesの誕生日だ。Sirも75歳になってしまった。「あとで、パプで再結成されるはずのThe Kinksはいったいどうなったんだ?」とか気になる事がいっぱいあるのだが往年のロックミュージシャンがバタバタと亡くなっていく中で、未だ現役を続けているSirに祝福を送りたいと思う。と言うことで、今回はThe Kinks伝説はここから始まったという事で、1stアルバム「The Kinks」。

The Kinksに比べたら、The Beatlesは牧歌的な田舎臭いバンドだ

 The Beatlesのようにちゃんとした制作陣がしっかりと仕事をしたバンドとは違い、The Kinksをサポートしているのは上流階級のド素人のマネージャー。ロックバンドの萌芽を観て、バンドで一山当てようと思って参入してきたのだろう。The BeatlesとThe Kinksのアルバムの質の差は、そういうところにも表れていると思う。やはりなんだかんだ言ってThe Beatlesの1stは完璧だ。非の打ち所が無い。だが、そんなThe Kinksだが、Lary Pageと云う有能なマネージャーを入れたおかげで、誰にも知られずに消えていった有象無象のバンドにならずにすんだんだろう。

いや、Rayの才能は、なんであれ開花したんだろうとも思う。この時代にRay Daviesという才能が必要とされていたのだ。で彼らの1stアルバム「The Kinks」だ。これまでオレはThe Kinksの1stアルバムは良く聞いてはいたものの、ロック黎明期ありきたりのあの音、単に白人が演奏するやかましく粗雑なR&Bだと思い込んでいた。つい先日、たまたまThe Beatlesの1stとThe Kinksの1stを続けて聞いて、がく然とした。

「The Kinksの性急さに比べたら、The Beatlesの歌なんか牧歌的にさえ聞こえてくる」と。The Kinksに比べたら、The Beatlesなんか田舎の羊飼いの鼻歌みたいなものだ(いやそれでも素晴らしいのだが)。

The Kinksの1stアルバム「The Kinks (Pye NPL 18096 mono: NSPL 83021 stereo) 」はU.Kでは、1964年10月2日にリリースされる。The Beatlesの1st「Please please me」は1963年3月22日だから、1年半の時間差がある。音的には特に進歩が無いのだが、The Kinksのアルバムには、何とも云えない勢いと、ロック!としか言いようの無い荒々しさが満ちている。

1stアルバム「The Kinks」には14の曲が収録されている

1 Beautiful Delilah (Cuck. Berry)
2 So Mystifying(R.Davies)
3 just Can’t Go To Sleep(R.Davies)
4 Long Tall Shorty(H. Abramson, D. Covay)
5 I Took My Baby Home (R.Davies)
6 I’m A Lover Not A Fighter (J. Miller)
7 You Really Got Me(R.Davies)
8 Cadillac (E. McDaniel)
9 Bald Headed Woman (Trad/Arr S. Talmy)
10 Revenge(R. Davies, L. Page)
11 Too Much Monkey Business (Chuck. Berry)
12 I’ve Been Driving On Bald Mountain (Trad/Arr S. Talmy)
13 Stop Your Sobbing(R. Davies)
14 Got Love If You Want It(J. Moore)

この当時のどのアーティストのアルバムも、カバー曲が半分を占める構成になっている。それはThe Kinksも例外じゃなく、14曲中Rayの作った曲はたったの6曲。それ以外は全てR&RやR&Bのカバーが占める。アルバム冒頭からカバーだというのはちょっと残念だ。ところが、このアルバム、他のアーティストと大きく違っているのは、どのカバーもなんとも粗っぽく演奏している事だ。もうやけくそになっているんじゃないかとすら感じる。このときRayは20歳、Daveは17歳。エネルギーが有り余っていたんだろうと思う。The Beatlesと大きく違うのがそこだ。全てがアップテンポ。この当時にしてはかなり画期的な演奏だったんじゃないかと思う。なんといっても、この性急さがThe Kinks。やはりLiverpoolの田舎者と、Londonの労働者階級の差がこう云った所に現われているんじゃないかなと思う。やはり都会は喧しいのだ。賑やかなのだ。苺畑で歌を歌っている歌手とは違うのだよ。

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アルバムThe Kinks、オレの各曲解説というか感想


1 Beautiful Delilah リードボーカルはDave。栄えある1stアルバム冒頭曲のリードボーカルをDaveが努める。きっと強引にオレに歌わせろ! というやりとりが有ったのでは無いかと思う。ここからもうバンド内の不和を想像してしまう。それにしても、Daveはこの時17歳。彼の軽快なギターが小気味よくてとても良い。この時代ではぴか一のセンスだったんじゃないかなとオレは思う。

2 So Mystifying 2曲目にRayのオリジナル曲。ボーカルもRay。軽快なR&B

3 just Can’t Go To Sleep Ray様お得意の甘いメロディーが、もうすでにここで確立されている。転調でとろけるようなメロディーに代わり、そして元にもどるという、この緩急自在かつ変化の有る曲作りはさすが。

4 Long Tall Shorty R&Rのカバーは、再びDaveがリードボーカルを担当。

5 I Took My Baby Home  Rayの作になる、軽快なR&Bソング

6 I’m A Lover Not A Fighter 再びDaveがリードボーカル。この頃はカバー曲をやる時は、もうDaveのノリノリのギターがとにかくかっこよい。アメリカの音楽番組ShingDigでは、フライングVを弾きながらこの曲を歌う姿が記録されている。この当時はフライングVのボディーの股に手を入れて弾くのが普通だったのだろう。その姿が、オレにはバタヤンに見えてしまう。

7 You Really Got Me 言わずと知れた、パンク、ヘビーメタルの原曲とまで云われるこの曲。曲の構造としてはやはりR&Bが元になっているんだな。ところが、そんな事をみじんも感じさせない、R&Bを母体にしてロックサウンドが確立された瞬間を捉えていると思う。ざくざくしたギターリフは、今聴いても新鮮。オレが高校生当時、この曲のギターソロはJimi Pageが弾いているという伝説が有ったが、Ray様によってその説は完全に否定されている。「Jimy Pageはこのアルバムでギターを弾いているが、あのソロはDaveのものだ」と。

8 Cadillac カバーだけどこれはRayがリードボーカル。Daveのリードギターがかっこよい。R&Bの奏法に影響されつつ、真似しつつ、正にロックギターとはこう弾くものだというものを、自然と表現している。

9 Bald Headed Woman トラッドソングのカバーなんだが、ちゃっかりプロデューサーのShell Talmyが自分の名をクレジットしてる。せこいプロデューサーだ。この曲の12弦ギターはスタジオミュージシャンのJimmy Page。マネージャーのLarryが連れてきたんだろう。ハモンドオルガンはJoe Lord。ええDeep Purpleのあのカッコいい爺さんですよ。

10 Revenge Ray様とマネージャーのLarry Pageの共作によるインストナンバー。そうLarry PageはJimmy Pageの兄。無能な上流階級のマネージャーが何も出来ないので、彼が実質的にThe Kinksを売り出していた。

11 Too Much Monkey Business  チャックベリーのカバー。Ray様がリードボーカルをとっている。Daveの性急で、せっかちなギターソロが素晴らしい。より曲を盛り上げている。

12 I’ve Been Driving On Bald Mountain  Daveがボーカル。トラッドソングのカバーだが、ちゃっかりShell Talmyがこの曲にもクレジットされている。

13 Stop Your Sobbing ボーカルはRay様。後にPretendersもカバーしてヒットした曲。R&Bらしさを残しつつも、後のThe Kinksを彷彿させる曲調。Rayのメロディーメーカーとしての才能が遺憾なく発揮された、甘いメロディーが心地よい。唯一Mickがドラムを叩かせてもらっているのがこの曲。Mickがレコーディングに慣れていない事もあり、それ以外の曲は全てBobby Grahamがドラムを叩いている。

14 Got Love If You Want It ボーカルはRay様。Slim Harpoのカバー曲。曲中盤から、演奏がどんどんヒートアップ。最初は極く普通のR&Bのカバーだったのだが、もうこれはロックとしか言い様のない荒さを増して行く。曲の終盤ではドラムもベースもギターも、皆狂ったように弾きまくり、まるでThe Whoの様じゃないかこれは。いやThe WhoがThe Kinksを真似したのだw もうハードロック。

リマスター版の充実ボーナストラック

オレ所有する1998年ごろにビクターから再発されたCDでは、ボーナス・トラックが12曲も加えられている。これが又良いのだ。今アマゾンで売られているのも同じ内容のものだが、それ以外にDeluxe Editionという2枚組がある。Deluxe Editionは未だ持っていないが、そう遠くない未来に手に入れようと思っている。オレの持っているリマスター版のボーナストラックは以下の12曲。

15  Long Tall Sally (Robert Blackwell, Enotris Johnson, Richard Penniman)
16 You Still Want Me
17 You Do Something to Me
18 It’s Alright
19 All Day and All of the Night
20 I Gotta Move
21 Louie, Louie
22 I Gotta Go Now
23 Things Are Getting Better
24 I’ve Got That Feeling
25 Too Much Monkey Business
26 I Don’t Need You Any More

15  Long Tall Sally  The Kinksのデビュー曲がこれ。彼ら曰く、「この程度のカバーなら、本人たちの演奏を聴いた方がマシ」、と言ったらしい。本人たちがそんな事を云うくらいだから、そりゃあ売れんわな。確かに冴えないカバーだが、なかなか味わい深くてオレは好きだ。

16 You Still Want Me Ray様のオリジナル曲。これは彼らの2曲目のシングル。1st同様さっぱり売れなかった。ちょっと上品に、遠慮がちに、小奇麗につくり過ぎたと思う。確かに何か足りない気がする。

17 You Do Something to Me  The Kinksの典型的なYou&Iソング。良い曲なんだけどね。The Kinksとしては、ちょっと何か物足りない気がする。

18 It’s Alright R&B調の曲なんだが、なんだか性急で、ちょっと粗っぽくて、だんだん初期のThe Kinksサウンドになって行く過程の曲。Daveの生き生きとした、荒いギターが聞き物だな。

19 All Day and All of the Night You really got meと並ぶ、初期の傑作曲。The Stranglersも1988年にカバーしてヒットした。You really got meの大ヒットで、迷いが吹っ切れて自信に満ちているのがよくわかる。

20 I Gotta Move 典型的なR&Bなんだけどねぇ。これはもうロックにしか聞こえない。

21 Louie, Louie 皆がカバーする有名曲のカバー。you really got meの原形とも云われている。正直オレにはこの曲は退屈でしょうがないんだよね。The Kinksが歌わなかったら聞かなかったな。

22 I Gotta Go Now 淡々とした静かな曲。特に書く事はないなぁ。

23 Things Are Getting Better とても軽快な曲で、Daveのギターワークが良い。

24 I’ve Got That Feeling ちょっとメランコリーなこの曲。Rayの甘メロディーが冴えるのだが、その裏で変化自在のDaveのギターが、やはり良い。センスがよすぎだよな。

25 Too Much Monkey Business LPを間違えて45回転で再生したような、超性急なバージョン。このボーナストラックで一番の聞き物はこれだと思う。まるでUltravox時代のJohn Foxxの様な早口で歌うRay様。オレとしては本編よりも、こっちの演奏の方がが好きだな。盛り上がる―。

26 I Don’t Need You Any More 他の人にどう聞こえるか判らないが、オレにはThe Beatlesの曲を意識して作られた曲に思えて仕方ない。真似、しかも中途半端な真似。きっとマネージャーに云われて仕方なく作ったのではとオレは推測する。

ブランド物は値引きなんかしなくても売れる

 このアルバムは、ボーナストラックが沢山入っているので、とてもお得な気持ちになる。The Beatlesのアルバムなんか1曲たりともボーナストラックは入っていないぞ! なんてThe Kinksはお得なのだろう。だが! ちょっと待てよ、それって安売りじゃないのか? The Beatlesはボーナストラックなんか無くたってアルバムはどんどん売れるのだ。ブランド物は値引きしない。そういった事で、ボーナストラックが多くて喜んでみたものの、ちょっと複雑な気持ちだ。

 The Kinksの1stアルバムを改めて根掘り葉掘りほじくるように聞いてみて気がついた。やはり彼らは1stからThe Kinksなのだと。たまたまThe Beatlesの1stと連続して聞いて気がついたのだが、彼らはやはり都会の労働者階級の若者たち。田舎者と違って、やはり性急なのだ。都会で生まれ育つって事はいろいろな刺激が多く、競争も激しく、最先端のものをどんどん吸収して成長していったのだろう。多くの似たり寄ったりのバンドであふれる中、少しでも目立たなければと、激しいバンド間の競走が、この様な演奏を産んだのではないかなと思う。

 その結果、こんな激しく、荒々しくR&Bを演奏したら、ロックになってしまったというアルバムが出来たんだろうとオレは思っている。そんなロックバンドなんかこの当時多数いたんだろう。The KinksがThe Kinks足らしめているのは、Ray Daviesと云う、これから恐ろしいほど才能が開花するメロディーメーカーがいた事が大きかったと思う。半分以上の曲がカバー曲のこのアルバム、何と云っても出来が良いのは、Ray様が作曲した曲の方なのだ。

Ray Daviesという才能と時代が産んだ奇跡の音。それがThe Kinksの1stアルバムなのだ。

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これは2枚組のデラックス版の1stアルバム


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